5話

いつもの縁側(1話参照)。

狩衣姿の男と巫女装束の少女が並んで座っている。


「…暇ですねぇ〜」

「…暇だなぁ〜」


今まで幾度となく繰り返した会話をまた繰り返すと、沈黙が流れる。


「…そういえば神主さん、」

「ん?」

「こんなに人いなくて大丈夫なんですか?その…お金とか…」

「…これはまた生々しい話だな…」

「いや、だって、おじゃる◯の狛犬たちはいつも嘆いたりしてますし…」

「…そんなのどこで知ったんだ?」

「奥の部屋のパソコンで。…暇ですから。」

「…おじゃ◯丸ねぇ…」


ーー何でそこにたどり着いたんだ?…まぁ、いいや。


「まぁ、結論から言うと心配しなくていいな。」

「なんでですか?」

「1もふもふで1アンサーかな」

「なんでですか?」

「もふもふしていい?」

「なんでですか?」

「…まあ、あるとこにはあるってことだなぁ」

「なんですかその怖い微笑みは!?…まさか盗みを…」


少女の脳内新聞の一面を、狩衣の裾をはためかせながら壁を越える男の写真が飾る。


「いやいや、そんなんじゃないから!!…色々出張でやってるって感じかな。」

「ああ、それで時々出て行くんですね!」

「ん、そう言うこと。まあ、いざとなったら親もそこそこ残してくれてるしね」

「そう言うことでしたか〜。…はっ!?」


紺は何かに気づいたようで、


「もしかしてその帰りにこっそりもふもふを漁ってたりして…」

「……ソンナコトシテナイヨ」

「なんですかその間!?しかもめっちゃ棒読みじゃないですか!!図星ですか!?…はっ!?」


紺は再び何かに気づいたようで、


「まさかつけ耳とか、つけ尻尾を…」

「…なんでそんなもの知ってるんだ?」

「パソコンで。」


ーーだからなんでそんなところにたどり着いちゃったんだ!?


「で、どうなんですか?」

「…ナンノコトカナー、ボクゼンゼンワカンナイナー」

「だからなんで棒読みなんですか!?合ってるなら素直に認めたらどうですか!!……はっ!?」


紺は三度何かに気づいたようで、


「まさかそれを私に……それは……ちょっと引きます…」

「わ〜っ!ちょっと待て、引くな!それは無い!それは無いから!冗談だから!こっち戻って来いって!」

「ほんとですか?」

「ほんとだよ!だってほら…」

「なんですか?」

「君はそのままが一番可愛いさ」


キリッ


「神主さん……」

「うん?」

「それはこのシチュエーションで言われても全然嬉しく無いんですけど…もともとこれがついてるからってことですよね?」


紺はくるりと回ると尻尾と耳を見せる。


ーーギクッ!


「それにさっき"それは"無いって言いましたよね?…てことは買ったのは買ったんですね?……はっ!?」


紺は四度何かに気づいたようで、


「まさか、自分につけて、自分でもふもふ〜♡なんてしてるんじゃ…ドン引きです…」

「おいやめろ!勝手に想像して引くんじゃ無い!してないから!買ってもないから!」

「おえぇぇ…」

「勝手に想像して吐き気を催すな!してないから!」

「本当ですか?」

「ほんとだよ!…そもそもあんな安っぽいもふもふでこの僕が満足できるわけないじゃないか!」

「…なんか一周回って信じられますね」

「そうそう、紺ぐらいもふもふじゃないと…と言うわけでもふもふさせてくれないか?」

「いやですよ!…一瞬神主さんを信じた自分が恥ずかしいですよ…じゃあ私は掃除に行ってきますから。」


そう言うと紺は傍の箒を持って立ち上がる。


「本当に買ってないからね〜?」

「はいはい、そう言うことにしといてあげますよ〜!」

「だから買ってないってば〜!」


神主さんの虚しい叫びを聴きながら紺は掃除に向かったのでした。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る