第7話 英雄たちのその後
かつての仲間たちが、英雄と名乗らない理由は様々であった。
医神の成聖者であるエディンは贖罪。
彼女は弟が犯した罪――生者だけでなく、死者をも傷つけた――を償おうとしていた。
彼女にとって、先の戦いは身内の犯罪の後始末に過ぎない。
だからこそ、自分が英雄である自覚もなければ、その資格もないと思っている。
そんな彼女は今、新大陸を探している海の民たちと行動を共にしていた。
新しい土地が見つかれば、人間同士の争いもなくなるだろうと淡い夢を抱いて――
彼女は、一生を医術に捧げるつもりでいた。
航海神の成聖者ペルイは、そもそも英雄の柄ではなかった。
彼は〝海の民〟と呼ばれている、ミセク帝国やファルスウッドとは別大陸の住民である。
元は遥か北、大海原を渡った先で漁師をやっていた身分。それが海賊に襲われ漂流し、豊穣神の成聖者であるシアに助けられた。
そこからは、なし崩しである。
彼は女、子供が命を張って戦っているのを、黙って見ていられるような人間ではなかった。
そんなシアが英雄と名乗らない理由は至極単純、ペルイが名乗らないからである。
シアは、少しばかり頭が残念だった。
三十歳になるペルイを捕まえて王子様と称するような残念さ。精神年齢もかなり低く、二十二になっても夢見がちで
だが、それは彼女自身の
シアは捨てられた――彼女の村の言い分では精霊に返された――子供である。
ファルスウッドの先住民であり、クロノスの始祖とされている〝森の民〟。
彼等は自然を緊要とするあまり、常に人口過多に悩まされていた。集落を広げようにも、森林の伐採や開拓を許容できなかったのだ。
となれば、人を間引くしか方法がないのは明白である。
そこで選ばれるのが、穀潰しの
ただ、彼等はそれを正当化するだけでは飽き足らず、神聖なモノにしてしまった。
結果、親は容易く子供を捨てるようになり、気付けば、人口調整でなく個人的な理由で放棄される子供のほうが多くなっていた。
シアもその一人だ。
彼女は六歳の時に、精霊へ返すという名目で森の奥深くに取り残された。
本来なら、そこで死ぬ運命だった。大人ならまだしも、子供が一人で生きていけるほど、森は優しくない。
始終、獣の気配に注意していなければ、あっけなく殺されてしまう。豊富な実りがあるものの、有毒性の見極めができなければ、たちまち中毒死に至る。
しかし幸か不幸か、彼女には〝植物の声〟が聴けた。それも、一方的でない意思疎通。危険も安全も、全て植物たちが教えてくれる。
そうして、彼女は生き延びた――思考能力を犠牲にして。
なんでもかんでも植物が教えてしまうので、自分一人で深く考えることを学ばなかったのだ。
おかげで、彼女が豊穣神の成聖者だと気づくには、多大な時間を浪費してしまった。
――わたし、お花さんとお話ができるの~。
こんな風に、のほほんと言い放つものだから、信じなかった者たちを責めるわけにもいかない。
いくら植物の声を完璧に聴けたとしても、彼女の会話能力が欠陥だらけでは証明のしようがないという……。
そして、創造神の成聖者シャルルは親から逃げだした家出少女であった。
御年、十一歳。
シャルルは産まれた時から、永貞童女として崇められていた。
娯楽も何も知らない、全てを親に支配された毎日。
親の目的は金儲けで、シャルルは神に選ばれる前から成聖者として祀られていた。
皮肉にも、偽物が本物になったのだ。
本人は望んでいない、恨んでしかいない神からのギフト。
シャルルは子供ながらに、それを対価だと思っていた。これまで、苦労した分の報酬。それを受け取る権利があるのは、自分だけだと。
少女の決定を仲間たちは尊重したが、問題が一つ。
どう見ても、シャルルは年端もいかない子供だった。一人で旅をしていれば、目立って仕方がない。
かといって、レイドやエディンに同行するのは過酷で教育上もよろしくなかった。
すると、シアが同行を申し出て、
――じゃぁ、わたしが一緒にいるね。
悲しくも、仲間たちの不安はより一層加速された。
見た目はともかくとして、実情は世間知らずな子供が二人。
しかも共に女で、戦闘能力の全てを〝神の力〟に依存している。
安全面からしても、絶対に保護者が必要だと――
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