走馬灯

寝台の上の君よ

あゝ、白い白い君よ……


部屋の隅で灯篭は回り、

古きあの日を容れて回り、

影の産む黄昏が、

部屋に満ち満ちて余る頃、

其頃君の白い白い眼、鼻、口、顔、声が、

回り灯篭の影と為つて、

白い白い影と為つて、

それも、灯篭の中に入つて、

其から後には、もう何も無い君の顔が、

真白い絹の下に広がつてゐるばかりである。

なので僕は絹の下を、ついぞ、終ぞ覗けずに、……


なので僕は唯、白い白い、又細い細い君の腕を、

変つて終つた君の腕を、

取つて、泣きもせず、笑ひもせず、

又灯篭が回る何時かの日まで、

さやうなら、とだけ云つた。……


寝台の上の君よ

嗚、古い古い君よ……

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ソフィスティケイティッド・デカダンス 山田 Ⓒ @yamada_maruc

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