第32話タケル編【孤独】

 僕の転院は3月半ばと決まった。僕は両親を病室に呼んで、ある決断を伝えた。


「転院してからも数ヶ月はリハビリをしなくてはいけないと聞いたんだけど、その前に高校を中退したいんだ。」


僕は両親にそう伝えた。母親は世間体を気にしたのか反対したが、父親は意外にもあっさり納得した。父親から、


「まぁ、来年中に戻れるかどうかも分からないし、戻れたとしても車椅子で通えるような設備も高校側にはないだろう。今は高卒認定もあるし退院してからゆっくり今後を考えればいい。」


と言った。僕は意外だったが、確かに高校にエレベーターがあるわけでもないしどっちみちこの状態では普通の高校には戻れないだろうからそれを分かってもらえただけでも良かったと思った。父親はさらに続けた。


「それから。退院後だが自宅を改築するのはかなり厳しい。だから退院までにはお前の住まいを探しておく。自宅には戻れないということだけ理解しておいてくれ。」


これには”やっぱり”という気持ちと”そりゃないよ”という気持ちが入り混じった。家族の中にはすでに僕と言う存在なしの生活が確立されていたのかと改めて思い知らされたからだ。


「分かった。」


僕はそれだけ伝えた。母親は・・・何も言わず黙ったままだった。


 両親が帰ってから、主治医が様子を見に来てくれた。主治医もまた両親の意向を聞いていたらしい。


「タケル君?大丈夫かい?」


『何が?何に関しての大丈夫かい?なんだ?』


僕は変な気の使い方をされているようで少し苛ついた。


「大丈夫じゃないって言ったらここにずっと居させてくれるのかよ!」


ずっとおとなしくしていたはずなのに、今日はどうしてもこんな言い方しか思いつかなかった。


「すまない。それは出来ないが、退院後の相談ならまたここに来てくれたら力になれるかもしれない。ご両親が探してくれた住まいが不便だったり気に入らなかったりした時にはこちらにも資料はあるから。」


この先生が言う”大丈夫かい?”は退院後の事だけだったのかと思うと更に腹が立った。今の僕の気持ちを気遣ってくれたわけではなかったのかと思うだけで無性にやりきれない気持ちになった。


『世界中で僕が見えている人は一人も居ないのかもしれない』


そんな孤独感で押し潰されそうになった。


「別にどこでもいいよ。だから先生を頼って戻って来たりしないから安心しなよ。」


僕は投げやりに言った。主治医もそれ以上何も言わず病室を出て行った。こんな時、たいていの大人は”そっとしておいてあげよう”とか自分に都合のいいように解釈して何も言わずにその場を去る。もし舞花だったら・・・


僕はどうしようもなく舞花に逢いたくなった。

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