第31話タケル編【迷走】

 2月の終わり。

僕は相変わらずリハビリの毎日を過ごしていた。残念ながら思うような成果は出ずにリハビリと並行して検査も定期的にやっていた。

そのデータがある程度溜まり、僕の足はこの先も動く可能性はないという結論に達した。

 舞花が信じてくれていた”絶対歩けるようになる”という希望は絶たれてしまったが僕は不思議と自棄になってはいなかった。多分、どんな状態でも僕は生きていられるという確信があったからだと思う。幸い、車椅子での生活もそれなりに慣れて来ていたからかもしれない。


 この診断が下った僕は、次の段階に進まなければならないと医師から言われていた。それは、


この病院を退院して、日常生活の訓練をメインに行うリハビリ専門病院への転院。


 正直、僕は舞花が居たこの病院でその訓練を受けたかったが病院と言うところは色々決まりがあるらしく、僕の状態ではこの病院でのリハビリはここまでと言うラインだったらしい。両親が医師に呼ばれて今後の転院先の説明などを受けていた。転院するのは僕なのになぜか僕を交えた説明ではなく、そこはかなり不満だったがこの病院じゃないならどこでも同じだと心のどこかで思っていたのかもしれない僕は不満を誰かに漏らすこともしなかった。


 リハビリ専門病院はこの病院から少し離れたところにあるらしい。今でも別に両親がマメに見舞いに来てくれていたわけではないが、これからはおそらく退院の目途が付くまでは見舞いにも来れないだろう。両親にとっては幸いなことかもしれない。そういう両親が僕の両親なのだ。


 転院の説明が終わり、転院先のパンフレットを届けに病室に来た両親は淡々と説明をしてすぐに帰ってしまった。僕は転院先を退院出来たら自宅に戻れるのだろうか?とふと考えた。僕の部屋は2階にある。当然車椅子では行けない。でも1階には僕の部屋に出来そうなスペースはない。高校ももしかしたらこのまま辞めることになるかもしれない。


 そう考え出したら僕の気持ちはどんどん迷走していった。転院先のパンフレットを眺めていると、1日の流れから退院までのシミュレーションが書かれていた。なんだか頑張れる気がしない内容だったが、僕にはここに行く選択肢しかないのだと自分に言い聞かせた。


 少し前なら”こんな時、舞花だったら・・・”と舞花が考えそうなことを想像して自分も前向きになろうと思っていただろう。でも今は想像すら出来なかった。天涯孤独・・・そんな言葉が僕の心を完全に支配していた。誠也もレッスンに忙しくてなかなか見舞いには来られなくなっていた。不安も不満も誰にも愚痴れない毎日。歩けないことに関しては自棄にならないが、孤独な毎日が僕の気持ちをどんどん沈ませていき、余計なことばかり考えさせていた。


生活は?


学校は?


退院後は?


ひとつも前向きに考えられずモヤモヤした気持ちを消化出来ずに転院までの日を過ごしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る