第33話タケル編【どん底】

 転院の日。

学校は春休み中と言うこともあり久々に誠也が来てくれた。今日はレッスンも夕方かららしかった。


「よぉ!タケル!全然来られなくて悪かったな。転院の話、聞いたの先週で驚いた。高校も辞めたとか担任に聞いてさ。」


誠也は前と変わらず普通に話してくれたが僕はなぜか距離を感じて自然に答えることが出来なかった。黙っている僕に誠也は、


「タケル?」


と顔を覗き込んで来た。思わず下を向く僕に続けた。


「ここに来る前に先生に今までの話を聞いた。なんか、悪かったな。もっと話を聞いてやりたかったって思ったよ。って言っても実際に来てなかったんだからなんとでも言えるって言われたらそれまでなんだけど。俺さ、タケルの足は治るって信じてたから正直ショックがでかすぎて、なんて言っていいか分からなかった。」


誠也は正直に自分の気持ちを話してくれた。


「俺よりタケルの方が絶対にショックだったはずなのに、力になれなくて。」


誠也は最後に逢った時と何も変わらないままだった。変わったのは僕だけだったと自分の性格が日ごとに歪んでいったことが恥ずかしかった。そして気分はどん底へと沈んでしまった。さらに僕は誠也の次の言葉でどん底へと沈み切ることになった。


「タケル!俺さ。デビューが決まったんだ。5月!あるバンドのライブの前座なんだけどその後はCDも発売される。俺も頑張るから、タケルも頑張れ!」


「・・・にを?」


僕は悔しさで声が出なかった。誠也は、


「ん?なんて言った?」


と能天気に聞き返してきた。僕は、


「何を?何を頑張れって言ってる?!リハビリか?!施設での生活か?!退院後の独立した生活をか?!夢を実現させて頑張る誠也と僕を一緒にしないでくれっ!」


と怒鳴ってしまった。誠也は怒鳴った僕を見て、


「やっと聞けたわ。タケルはそうやって自分の言いたいことを内に秘めまくって今日まで来ただろ?不健康そうな顔しやがって。ここに入ってきた瞬間にすぐ分かった。こりゃ少し爆発させてやらないとなぁって。あ、でも最初に言った”俺もショックだった”ってのは本気だぜ。けどなんか何にも俺の話聞いてないなぁって思ったからさ。ちょっと起爆装置発動してみたわ。」


と笑いながら言った。驚いたのは僕の方だ。怒鳴られた誠也が驚くかと思っていたら僕が怒鳴れるように、気持ちを吐き出せるようにと仕向けてくれたのだ。

 そうだ。昔から誠也はこういう性格だった。人の気持ちが分かる奴だった。僕は誠也と舞花にずっと助けられていたことに改めて気付かされた。と同時に自分の器の小ささに完全にどん底へと突き落とされた。


「誠也・・・お前、ホントにすげーよ。僕、多分、吐き出したかったんだと思う。ありがとう。デビューとか凄過ぎ。応援してるよ。」


久しぶりに怒鳴ったおかげで気持ちが吹っ切れた気がした。今までのイライラした気持ちが鎮まり、気が抜けてしまった。


「俺、役者になれる?」


誠也は笑いながら言った。


「名役者だわ。」


僕も笑いながら言った。そして、


「僕、リハビリ後は一人暮らしなんだ。僕も自立出来るように頑張るよ。」


と伝えた。誠也は嬉しそうに頷いてくれた。

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