第26話【魔法の花】
午後になって、誠也が見舞いに来てくれた。出来る事なら持って来てもらいたくない【お見舞いの品=通知表】を持って。
「ったく、何やってんだよ。」
誠也も舞花と同じ事を言った。僕は、
「悪かったなぁ」
とだけ言った。実際自分でも滑って来る車に気付かなかったと言うのは情けないと思っていたからだ。
誠也は、
「明日なんだけど、今、喫茶店に寄って来たんだ。事情説明したら、マスターも、ちょっとガッカリしてたけどしょうがないって言ってくれたよ。一応、あのツリーは今月いっぱいはあのまま点灯してるらしいから、お前の回復を見てやり直し出来るならクリスマスなんて関係なくやろうぜ。」
と言ってくれた。
「そっか・・・そうだよな。どう頑張っても明日は無理だからな。本当にスマン。・・・あのさ、舞花は大丈夫なのか?」
僕は、自分の回復よりも舞花の病状の方が気になった。
「舞花は、今は落ち着いてるんじゃないか?てか、医者ももう分からないって言ってたしな。」
誠也が言った言葉に僕は反応した。
「医者と連絡取り合ってるのか?」
「そりゃそうだろ。明日の件、もし体調不良になったら舞花は外出出来ないんだから。念入りに聞いておかないとって思ってな。」
誠也はこう言うところがあるのだ。何でもその場しのぎの僕とは違って、キチンと計画を立てたり予定を立てたり・・・と言うのをサラッとやってしまう。しかも誰にも気付かれることなく。
「そっか・・・サンキューな。僕、何にも役に立たないな。」
僕は少し落ち込んだ。呑気に事故ってる場合じゃない時に事故って、僕より大変な状況の舞花に文句を言ったり、2人で準備しようと決めたのに誠也にすべてを任せっきりで、いったい何をやってるんだろうって自己嫌悪に陥っていた。
「お前の悪い癖だな。」
誠也が言った。
「何が?」
僕は聞いた。
「お前、今、自分は何やってるんだって落ち込んでたろ?事故はお前のせいじゃないだろ?お前が落ち込むことはないんじゃないか?あの場にいたのが俺でもきっと同じようになってたんじゃないかな?雪でハンドル操作が出来なくなった車だったんだろ?誰にもどうすることも出来なかったと思うぞ。」
誠也はすべてお見通しだった。僕はますます自分があまりにも幼く見えた。
「なぁ、タケル。明日ってここでもクリスマス会ってやつをやるらしいじゃん。そこで舞花にサプライズ、しねぇか?」
誠也が提案した。
「サプライズ?」
僕が聞くと、
「舞花の好きな花・・・なんだっけ?かすみ・・・」
「かすみ草?」
「そうそう!それっ!その花を俺がクリスマス会の間に舞花の部屋いっぱいにしておくってのはどうだ?」
「部屋いっぱいって・・・」
「ダメかな?俺はクリスマス会ってやつに参加しないんだから、出来るだろ?」
「僕たちにそんな金ないだろ・・・」
「金かぁ・・・」
僕は誠也のアイディアを現実的な問題の指摘で切ってしまったが、実際時期的なものなのか、少し前からかすみ草の値段も上がっていたのだ。クリスマスに花束を・・・と言うパターンが多いのだろう、その時かすみ草はさり気なくメインの花を引き立てる役がある。花束が必要な時期には何気に脚光を浴びる花なのだ。
「悪いな・・・現実的な事言っちゃって・・・」
僕は何となく謝った。誠也は、
「ま、でも無理だもんな。だったらせめて少しくらいは持って行ってやろうぜ!」
誠也はすぐに気持ちを切り替えた。僕は、僕がいつも買っている花屋を紹介した。いつも僕の相手をしてくれる店員の特徴を教えると、誠也は明日、ここに来る前に買って来ると言ってくれた。僕は事故の時に持っていた財布から少し、誠也に手渡した。
と、そこへ舞花が入って来た。
「よっ!・・・あっ!誠也も来てたんだ♪」
『危ない、危ない!二人の会話を聞かれたら明日のサプライズが台無しになるところだったぁ~』
僕はホッと胸を撫で下ろした。隣では誠也も同じ様子だった。
「よぉ~!2人で仲良く同じ病院に入院するとはなぁ~。どんだけくっついてたいんだよ。」
誠也が言った。
「まぁ、運命ってやつかもねぇ~♪」
舞花が言った。
僕は・・・言葉が出て来なかった。誠也の質問、『どんだけくっついてたいんだよ・・・』に関しては、ずっと一緒に居たいと思ってるし、舞花の、『運命ってやつかも』に関しては素直に嬉しかったし・・・でも僕の意見としての言葉は出て来なかった。
「明日のクリスマスなんだけどさ、誠也も参加したら?お見舞いの人も参加出来るんだよ♪」
舞花が言った。誠也は、
「それって何時から?」
と聞いた。
「確か、夕方6時くらいから始まると思うよ。夕飯終わってすぐ位からみんなロビーに集まるの。この階はロビーを挟んでこっちが整形病棟であっちが私がいる癌専門病棟だからね。ちょうど中心のロビーが会場♪」
舞花は答えた。誠也は、
「まぁ、来れたら来るよ。」
と、答えた。誠也の名演技には感心した。良くまぁ、あんなに自然に時間を聞き出せるもんだ。僕ならきっと不自然になっちゃうだろうなぁと思っていた。
しばらく、なんてことない話を3人でしていると、舞花の主治医が入って来た。
「やっぱりここにいたのかぁ。病室にいなかったからここだと思ったよ。」
舞花の主治医はにこやかに言った。
「ん?何?」
舞花が聞くと、
「ちょっと検査が入ってね。」
主治医が答えた。
「今から?」
舞花が尋ねると、
「うん。」
とだけ、主治医は答えた。
舞花はかなり不満そうな顔をしていたが、
「検査だってさ。ちょっと行って来るね♪」
と僕たちに言って僕の病室を出て行った。
残された僕たちは、なんとも言えない不安に襲われていた。
「何の検査だろう?」
誠也がドアの方を向いて言った。
「さぁ?こんな時間から検査なんて・・・」
僕も言った。
なんとなく病室に重たい空気が漂った。
「舞花が居なくなるなんて、俺、考えられないよ。」
誠也がつぶやいた。僕だって同じ気持ちだ。でも僕は、誠也のように自分の気持ちを素直に言葉に出来ない性格だった。
僕は黙り込んでいた。誠也もそれっきり何も言わなかった。
しばらくして、
「なぁ・・・タケル。奇跡って本当に起きるのかなぁ?神様って本当にいるのかなぁ?」
と、誠也が聞いて来た。現実派の誠也から出るなんて思ってもいなかった言葉だった。
「奇跡・・・起きて欲しいよ。神様がいるなら、僕たちの願いを聞いてほしいよ。」
僕は言った。そして、
「僕、舞花にたくさんの勇気と希望をもらった。でも僕は舞花に何かしてあげたかなぁ?って考えてたんだ。でも思い浮かばなかった。もらってばっかで何もあげてない気がするよ。」
と呟いた。
「俺もだ・・・」
誠也が下を向きながら言った。そして、
「クリスマスには俺たちから最高のプレゼントを用意したいな。」
と言った。
「そうだな。僕は動けないから、誠也に任せちゃう事になっちゃうけど・・・」
僕が言うと、
「埋め合わせは、お前が治ったらたっぷりしてもらうっ!」
誠也が少し笑いながら言った。僕も笑って同意した。
それから、明日の計画を入念に練った。
『神様!もし、あなたに僕たちの祈りが通じたなら・・・もし、クリスマスに奇跡が起こせるなら・・・舞花を連れて行かないでくれ!僕たちと一緒にいつまでも居させてくれ!』
僕は、そう願わずにはいられなかった。それはきっと誠也も同じ気持ちだっただろう。
明日は最高のクリスマスを舞花にプレゼントしようと2人で誓い、誠也は病院から出て行った。
舞花が僕たちにくれた勇気の魔法、優しさの魔法、そして・・・
誰かを愛すると言う魔法・・・。
たくさんの魔法を僕たちに掛けてくれた舞花に、今度は僕たちから奇跡と言う魔法が掛けられたらどんなにいいか・・・
僕は一人になった病室で考えた。
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