第11話【涙の花1】

 舞花の突然の告白に僕の心はザワザワと騒いでいた。


『誠也はこの事を知ってるのだろうか?もし知らないならどうして僕にだけ正体を明らかにしたんだろう?』


 舞花の状況が大変だと言うのに、まだ勝手に誠也と争ってるつもりでいた。そして、何故か今は自分の方が優位に立ってると優越感に浸っていた。僕はつくづく自分のことしか考えられない性格らしい。


 でも僕は舞花に聞いてみたくなった。


「どうして僕に本当の事を教えようと思ったんだ?」


僕の質問に舞花は即答した。


「まだ未来があるって言うのに、あまりにも根性無しなことばっかり言ってるからよ!毎日を、1時間を、1分を大事に生きてる人達がたくさんいる事を知って、自分の軟弱な根性を見直してほしかったからよ!」


舞花の言葉に僕はドキッとした。僕は当たり前のように夢を見、将来はプロのギタリストになりたいなどと思っている。でも舞花は今を必死に生きている。明日はベッドから起きられないかもしれないって思いながら動ける自分を懸命に生きている。それなのに、僕は何も考えず、何も得ず1日が終わってしまう事なんてザラにあった。


 きっと舞花はそんな僕の行動や考え方に腹が立っていたのだろう。


「軟弱な根性・・・って。」


僕は本当に軟弱だと思った。


「私ね、みんなで曲を作ったり意見をぶつけ合ったりしてた頃のタケル達が大好きだった。夢に向かって、好きなことに向って一生懸命だったしね。羨ましさと同時に励まされてた。BAD BABYSの曲を聴いてると自分も頑張ろうって気持ちになれた。解散した時には正直ショックだった。でもね、誠也とタケルは残ったでしょ?2人だけでも頑張って続けようって思ったんでしょ?それが分かった時にはすごく嬉しかった。私も応援してた。それが何?今のタケルは?別人もいいとこじゃん!カッコ悪いし、見ててムカつくんだよね。」


透き通る声でこんなに文句を言われるとは思ってなかった僕は思い切り凹んでいた。確かに5人でやってた頃は、意見がぶつかってけんかになったとしてもそのおかげで得るものが必ずあったし、お互いの意見が曲にも反映して更にいい曲に仕上がったりもした。


 それが今はどうだ?

誠也は相変わらず音楽に前向きだが、ついて行くと言った僕はまるで真逆。音楽と舞花を秤にかけたら、間違いなく舞花が勝つ。音楽もその程度になっていたのだ。

 舞花はズバリ僕の弱点を指摘してくれたのだ。


「今日、タケルをここに連れて来たのは、もっと『今』を大事にしてほしかったから。私、高校の友達にも入院しながら学校に通ってる事を言ってないの。言えば、興味本位に聞いてくるでしょ?私、自分の病気を好奇心だけで聞いて来て欲しくないの。病気だからってあわれみの目で見られたくないの。だから黙って通ってる。もちろんこの先欠席が多くなるかもしれない。もしかしたら3年生になれないかもしれない。でも最後まで言わない。だけど、タケルには知ってて欲しかった。この事実を話すことでタケルが少しでも変わってくれる・・・てか、戻ってくれるならいくらでも話す!タケルが私の事を好いてくれてるのも分かってる。最初に付き合えないって言ったのにも関わらず、ずっと見ててくれてるのも分かってた。でも私には恋愛なんて出来ないの。だから最初から断った。」


舞花は一気に言うと、少し疲れた顔になった。


「何で恋愛出来ないなんて思った?前向きになってほしいって人に言っておいて自分は全然前向きになってないじゃないか!本当の愛を知ってれば病気なんて関係なくなるだろ?何にも分かってないんだな。」


僕は自分でも驚く言葉を口にしていた。目の前の舞花は苦しそうな顔をしているのだ。普通なら気遣うところなのに、どういうわけか僕は舞花を指摘していた。


 それを見た舞花が少し微笑んだような気がした。そして、


「誰かが死んだところって見たことある?」


と聞いて来た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る