第9話【正体の花1】
舞花に気付いたナースが、声を掛けて来た。
「おっ!今日は早いね。お帰りっ♪・・・あ、もしかしてこの子がBAD BABYS?」
どうやらナースは僕たちのバンドを知っているようだった。
「そう。でももう辞めるらしいよ。」
舞花はナースと普通に話していた。
「なんでぇ?もったいない!すっごくいい曲歌うんでしょ?」
ナースは僕に問い掛けて来た。僕は黙っていた。
「あら?私、君に話し掛けてるのよ!ちゃんと答えてくれなくちゃ!」
ナースは僕に再び言って来た。
『なんだ?この状況!ここが舞花の家ってどういうことだよ!どう見てもただの病棟じゃねぇか!他にも患者、普通にいるし!』
僕は舞花の冗談が腹立たしくなった。さっきまでやっとキスすることが出来た幸せ感でいっぱいだったにも関わらず、今はその幸せさえ消し去るくらい腹が立っていた。
そんな僕の感情などお構いなしに舞花は相変わらず掴んでいた僕の腕を強く引っ張った。
病棟の廊下をズンズン歩いて行く舞花。すれ違う患者は、
「おぉ!舞花ちゃん、おかえりぃ~♪」
「舞花、今日は早いね♪」
など・・・まるでご近所のおじさんおばさん達が話し掛けるように自然に声を掛けて来た。舞花も、
「ただいまぁ。今日は根性無し連れて来たの。少し根性叩き直さなくちゃって思って。」
と普通に答えていた・・・
『えっ?根性無し連れて来た?それって僕のことかよ?!』
舞花の言葉に耳を疑った。
『しかも根性叩き直す・・・ってどういうことだ?』
僕は何が何だかさっぱり分からなかった。
「そうかいっ!しっかり叩き直すんだよ!」
すれ違う患者は何故そんなに笑顔で・・・しかも舞花の言葉を肯定してるし、全然意味分からん!って状態だった。
僕の気持ちなど全く無視で舞花は病棟の一番奥の部屋へと到着した。
“白井舞花様”
病室の入り口にはそう書かれていた。
どうやら個室のようだ。
「入って!」
舞花は静かに言った。さっきすれ違った患者に『根性叩き直す!』と言った口調とは別人だった。あの言い方は本気で怖かった。
僕は促されるままに病室に入った。
少し大きめの部屋の奥にベッドが置かれていた。
配置を少し変えればここも三人部屋くらいにはなるだろうと言う広さだった。
「座って。」
ベッドの横にあるソファーを見ながら舞花は言った。
僕は言われるまま従った。
舞花は自分のベッドに腰を下ろし、僕の方をじっと見た。
そして、
「ご質問は?」
と聞いて来た。
『ご質問はたっぷりだ!ありすぎてどれから言っていいか分からないくらいだ!』
僕は思った。でも一番の疑問だった事を最初に質問した。
「ここが舞花の家ってどういうこと?舞花は入院してるのか?」
「入口に患者名として書いてあったの、私の名前よ。つまり私は入院患者。」
「どこが悪くて入院してるの?」
僕は見た目どこも悪くなさそうな舞花が入院患者だとはどうしても思えなかった。
「どこが・・・かぁ。」
舞花は窓の外を見ながらしばらく黙った。
『えっ?もしかして聞いちゃいけない病気?人に言えない病気とか?』
僕は人に言えない病気とはどんな病気なのかは分からなかったがいい加減にそう思ってしまった。
「まぁ・・・簡単に言うと癌かな?」
『えっ?ガン?舞花は今、ガンって言った?』
「難しく言うと?」
僕はどうしてこんな時にこんな質問してるんだろう?癌だと言うならそれでいいじゃないか!難しく言われたってどうせ分からないだろ!と自分で自分に突っ込みを入れていた。
「難しく言うと身体の全身に癌があってね。週に二日間丸々放射線治療してないと抑えておけないの。この長い髪、かつらよ♪もうとっくに髪の毛なんてないもの。放射線治療をするとね、髪の毛だけじゃなくすべての毛が抜けて行っちゃうのよ。だから、実は眉も人工で埋め込みしてるの。結構普通に生活してるフリするのに苦労してるのよ。」
舞花の言葉が何を言ってるのか全く理解出来ない自分がいた。だから、難しく言うと?なんて聞かなければ良かったんだ。僕のバカ・・・
とにかく何か言わなくちゃ!と思った僕は咄嗟に、
「あ・・・あのさ・・・」
と言ってみた。
「何?」
僕は、舞花に『何?』と聞かれたはいいが、『あのさ・・・』の続きが思い浮かばなかった。要は頭の中が整理出来てなかったのだ。目の前の舞花はいつも僕たちの練習を見に来ていて、夜遅くまでスタジオ入口のドアから身体半分だけ見せていた。病院に入院中の患者はとっくに消灯時間を過ぎてる時間だったはずだ。それに、毎日学校で元気に過ごしているのも事実。入院中に学校に通うなんて聞いた事がない。むしろ学校が休めてラッキーくらいな気分になるのが僕だった。
『ヤバ・・・舞花、僕の言葉を待ってる。てか、そんなにジッと見つめないでくれよ。さっきのエレベーターを思い出しちまって変な気になっちまう!』
男と言うのはつくづく不謹慎だと実感した。舞花は真面目に病気だと告白してる。それなのに見つめられただけでその告白を愛の告白だと勘違いしてしまうんだから。
と言うか、たぶんそんな勘違いするのは僕だけだろうけど・・・。
僕は舞花から目をそらし、
「なんで学校来てるの?」
と聞いた。
『違うっ!そんなこと聞きたかったんじゃない!何言ってんだ?僕!』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます