第1章 学園生活

入学式1

 二一三十年年四月『天武学園』入学式当日


 桜舞う学園の校門を一人の少女が通り抜ける。


 その姿はまるでおとぎ話に出てくる儚げな雰囲気をまとう白雪姫のようで、数多の人の目を引く。


 しかし、少女はそんな目線など一切気にしないらしく、淑女然とした様子で入学式の会場に向かっていくが、当人の中の頭はそれどころではなく、これからの学園生活をどう過ごしていくかを考えるのに必死であっただけである。


 「ここから始まる……。必ず私はこの学園の頂点に!そして……」


 入学式会場へと入る。内装はとても煌びやかで、式を行うホールまで続く廊下や壁には数々の調度品が並べられており、面白がって触ろうとしていた生徒が、警備兵に怒られている。


 ホール内は広大であり、中に入ってみるとすでに多くの生徒たちが自由な席に座っている。あまりにも人の数が多いと思ったが、この学園の入学式は全校生徒全員で新入生をお迎えするといった形をとっている。今年の新入生は百名。そして、一般の高等学校と同じく三学年であるので単純に計算して約三百人の生徒が集まるのである。


 (後ろの方の席はまだ空いているわね)


 前の席はいたく盛り上がっているようで、人だかりの様なものができている。


 そうして席に座り式が始まるのを待つ間に、そういえばと思い出す。


 (今年は、次代の八色姓族カラーズが全員同じ学年で入学するのでしたね……)


 八色姓族とは、八十年前に起こった事変で日本の秩序が乱れ為政者の力が及ばなくなった時、トップに台頭した能力者を抱える当時の民間の自警団を率いた八人の事を指す。


 彼らは、それぞれ強力な能力を有しており姓が八色の色を表していた為に名付けられた。


 「あの~、すみません」


 声が掛けられた方へ顔を向けると、一人の少女が前かがみになってこちらの顔を覗き込んでくる。周りに自分以外がいないということは、どうやら自分に用があるようだ。


 「お隣、空いてますか?もし、良かったらご一緒したいなと……」


 「はい、大丈夫ですよ。私も一人は少し寂しかったもので」


 「わぁい、良かったぁ!失礼しますね」


 と、彼女は自分の右隣に座る。


 「初めまして!あたし、久留谷芽衣くるやめいって言います!」


 そう言った彼女は、とても可愛らしい見た目をしている。背は小さく、スリムな体系をしているが、パッチリと大きな目をしており、目鼻立ちは整っている。まるで、猫を思い起こさせる奔放そうな美少女である。


 「初めまして、美雪聖那みゆきせいなと言います。よろしくお願いしますね」


 「よろしくお願いします!綺麗な名前ですね! ……あの、会ったばかりで失礼ですけど良ければ聖那って呼んでもいい?……ですか?」


 「はい、では私も芽衣と呼ばせていただきますね。それと、敬語が慣れていないなら無理しなくても大丈夫ですよ?」


 「えっ、あ、あはは……。やっぱりばれちゃったかぁ。じゃあ、聖那が構わないならアタシも素の話し方でいくね。だったら、聖那もそんなお上品な話し方じゃなくて私にも砕けた口調でもいいんだよ?」


 「いえ、私はこの話し方が常であって誰でも同じ接し方なのです。よそよそしい態度で接っしているという訳ではないので、ご理解いただけたら嬉しいです」


 「そっか、そういう事なら了解だよ。にしても、聖那って本当に綺麗だね。その話し方も振る舞いも、まるでどこかのお嬢様みたい」


 「そうですか?私は特に意識をしていませんが、家では特にマナーが厳しかったもので、その所為かもしれません。」


 「へーえ、そっか。そういうことなら、他の皆が変に意識しちゃうってこともわかるかなぁ」


 「どういうことですか?」


 「聖那が綺麗でみんな話しかけてみたいんだけど、他の人たちが寄り付けそうにないほど高貴な感じの人に見えたから話しかけづらかったんだろうなって。八色姓族の人たちは皆が美形揃いだけど、あの人たちは意外とオープンな感じだしね。だから、興味を持ってたり、少しでもお近づきになりたいって人が群がるのよね」


 「そうなんですか?私はそんな雰囲気を持っているつもりは無かったんですけど…。それにしても、芽衣、群がるって表現は少しどうかと思うけれど、それだったら何故あちらではなくこちらに来たんですか?」


 「んー。何となくかな。確かにあの人たちは雲の上の存在で知り合いにでもなれればすごい事なんだろうけど、なんか面倒事の塊の様に思えちゃってさ。それで、聖那も負けず劣らずの美形で、知り合えればアタシのこれからも少しは花咲くかなぁ……って思って。で、一人で座っていて周りがその機会を伺っているのを見たら、一番乗りしないとって勇気を出したわけ!」


 「ずいぶん素直に吐き出しましたね。でも、動機はどうあれこの短時間で私があなたと話してみて楽しいと感じたのは事実です。それに、隠すことなく話してくれたのも含めて信用できそうですし。 ……ということで改めて、よろしくね芽衣」


 「うん!」


 改めて打ち解けあった二人はその後も他愛もない話を進めていってから少し経った頃。


 「これから、入学式を始めます。生徒の皆さんはお静かにお願いします」

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