第17話 1-17
「いやー、流石に強い人たちがいると楽ですねー」
フミコは刀を納めると、ご機嫌に耳をピコピコとさせながら、チームメンバーたちを労った。
「本当、ソーマ君とセツナさんって強いんだね」
ミナは会話に加わると、後ろからフミコの耳を掴んでくすぐった。
「ミナみーも、前よりも腕を上げましたね。ランクが上がったのでしょうか?」
「うん! この前の戦いでB+まで上がったよ!」
「おー、早いですね。もう私も追いぬかれちゃいましたね」
ほのぼのと少女ふたりがじゃれあっていると、セツナがそこでひとつ思い出したらしい。
「そういえば、サカキさんのランクはA+なんですよね?」
「ん? ああ、そうだけど」
「この前の戦いぶりを見る限り、そろそろ、【
「あー……どうだろうね? さすがにこのランクになると、ひとつ上げるだけでも相当時間がかかるだろうし」
「そうですね。僕もB+からAに上がる時は半年以上かかりましたから、それ以上ともなると随分と時間がかかるはずでしょうし」
「まあ、それでもかなり早いほうだけどね。平均的な才能だと【
サカキとセツナが雑談を繰り広げていると、その話にミナが興味を示した。
「ねえフミコ、ルーンファウンダーとルーンナンバーって何? 強い人たちに与えられる称号か何かなの?」
友人の問いにフミコは目をぱちくりとさせると、一拍の間を取ってから答えた。
「そうですね。ミナみーもそろそろ【トータルランク】のことを学んで、意識した方がいいでしょうね」
そうフミコは前置くと、ちょこんと人差し指を立てた。
「まずですね、ルインズアークの総人口は七千万人以上います。その中で、ファウンダーズギルドに登録している、ファウンダーの資格を持つ人間は七百万人ほどです。そして、そのトータルランクの平均はD+。この平均を超えた者――トータルランクC以上の人間には、【
ここでフミコが一度話を切り、ミナの反応をうかがった。
彼女は、フミコの話をちゃんと聞いているようで、続きを促した。
「トータルランクだけがグレードを決める絶対材料ではありませんが、ここまではほぼトータルランクの高さに応じたものになります。ですが、ここからは違います。トータルランクがBを超えた者――かつ【
「……クエストルーン?」
その単語は初めて聞いたと、ミナの目に好奇が表れた。
「アバターに刻まれたルーンコード――その潜在能力を引き出し、新たなルーンコードへと作り変えた栄誉の力。それが【クエストルーン】です。クエストルーンとは、己の限界を超えた【戦い】を経験した者のみが得る、特殊な能力です。その能力は多岐に渡りますが、持っている人間と持っていない人間では明確に差がつくほどに、強力な力を有しています」
「それだけとんでもないと、持っている人は少ないのかな?」
「はい。大体は百人にひとりほどですね。とはいえファウンダーの総数は分母として大きいので、全体で七万人はいるという計算になりますが」
「その能力を持っている人がルーンファウンダーなんだね? じゃあ、ルーンナンバーはそれよりももっと上のグレードってこと?」
ミナの言葉を聞き、フミコは「正解です」と太鼓判を押す。
「トータルランクがSに到達したファウンダーに与えられるグレード、それが
「プ、プロ……!? 話が大きくなってきちゃった……!」
「もちろん、さすがにルーンナンバーレベルのファウンダーともなると、滅多にいません。中央や北、そして西を含めた全大陸――ファウンダーの総数七百万人の中でも、その数は千にも届きません」
「千人以下……ちょっと会って見たい気もするけど、無理なのかなぁ……」
ミナはそう述べると、頬に手を当てて唸った。想像以上の話に困惑しているのだろう。
「いや、意外と身近にいるもんだよ」
話にサカキが加わった。
「それだけすごいってことは、良い意味でも悪い意味でも、すぐに有名になっちゃうんだ。上位のエリアに挑む時にはまず呼ばれるし、連盟でも、強いファウンダーがいることは宣伝になるから、ルーンナンバーがいない連盟はやっきになって引き入れる。人によっては講演会や講習会を開いている人もいるし、テレビに出る人もいる。だから、会う機会はいくらでもあるんだ」
サカキの言を引き継ぎ、フミコが続く。
「そうです。ミナみーは、いままで意識していなかっただけで、実際は何度も会っているはずなんです。というか、この前、セツナさんたちと一緒にオルドナの森に挑んだ時にもひとりいましたね」
「え!? 本当!?」
「はい、あの時の魔術師の人がそうですね」
「あ、あの人がそうなんだ……」
「意外だ」と全身で表現するミナに、フミコはにっこりと笑った。ついでにと、【魔術師】とはSランク以上の魔術使いに与えられた言葉であり、【魔術士】はそれ未満を指す言葉であるとフミコは付け加えた。
「つまりはそういうことです。これからファウンダーを続けていけば、そういった人たちと接する機会もさらに増えるでしょう。今度からはそういったことにも目を向けて、しっかりと意識をするようにしましょうね」
「はい! そうします!」
ミナは両拳に力を入れて「頑張ります」感を高め、意識を燃え上がらせた。
「ふふ、ミナみーのやる気に火が付いたようですね。ちょうどいい塩梅ですので、そろそろ狩りに戻っちゃいましょうか」
「うん。じゃあ次はもっと奥に行ってみようか。俺が先頭に立つから、セツナは後ろを頼んだよ」
「わかりました。今日中にサカキさんのランクがSになるといいですね」
「さすがにそれは無理かな……?」
「ソーマ君! 私も頑張るから、一緒にランクを上げようよ!」
「う~ん、それだとディセットさんの方が先に上がりそうだね」
それぞれが思い思いの言葉を交し合うと、ぼちぼちと狩りに戻ることにした。
ふとサカキが空を見上げれば、太陽の位置は中頃を過ぎていた。
視線を戻せば、遠くに見える湖の水面には太陽の光が注がれ、それは、強烈な反射光となってサカキの目を焼いた。
――暑くなってきたな……。
サカキはシャツの胸元を掴み、軽く熱を逃がした。
もうすぐ、この世界にも本格的な夏がやってくるのだ。
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