第4話 アリス VS サボロー! その2

『全世界のコンピュータ端末、未知のウィルスに感染?』


『この新種のウィルスは、利用者に対して日常生活の怠慢を効果的に促すとして、IPAは利用者に対して即座にコンピュータ端末をインターネットから切り離すことを推奨しており』


『ウィルス対策企業によると、本ウィルスの駆除方法は現在判明しておらず』


 そもそもそんなニュースに辿りつけた人々は、ごく少数だろう。僕自身もスマホに仕掛けた目覚ましが動かなかっただけでなく、舌打ちしつつ取り上げた画面にはサボローが現れていて、こう囁かれた。


『山手線、止まってるってよ? 諦めて二度寝したら?』


「ちょっと、サボローさん、これは洒落にならないでしょう」


 云ったが、どうもこのサボローは単純な人工知能らしく、中の人とは繋がっていないらしい。しかしサボロー・ウィルスは、ありとあらゆる手段で利用者をサボらせようとした。ネットに繋がった機器の時計は全くあてにならないし、スケジューラーはぐちゃぐちゃだ。テレビならば多少マシだろうと思ってNHKをつけてみたら、何故だかこんな時間からナディアの一挙再放送をやっている。どうやら番組表まで弄られたらしい。


『Saboro Crisis!』


 サボローの魔の手は海外まで伸びているらしく、より直接的な報道が行われていた。アナログ新聞には例の棒人間が一面で報じられていて、彼によって意志を挫かれてしまった人々のインタビューがYouTubeに載せられている。公共機関の運転手は一斉に寝坊をし、会社の守衛は鍵を開け忘れ、一方でネットでは一斉に魅力的なコンテンツが一斉に公開されていた。新作映画、新作アニメ、そうしたものが公開日を前にして流出し、誰でも見られるようになっている。幸いにして人命に関わる分野には影響がないらしいが、このままでは世界のGDPが急降下してしまうだろうといった専門家の声が上がっていた。


 参ったな、と思いつつ、とにかく僕はサボローが投げかけてくる様々な誘惑を払い除け、アパートから出る。普段なら通勤通学で人通りが絶えない時間帯だったが、辺りは驚くほどに静まり返っていて、車通りも殆どない。駅も人影がまばらで、そもそも運転手急病とか何とかで間引き運転になっていた。


 そして何とか学校に辿り着いたのはいいものの、殆どの授業が休講だ。仕方がなく研究室に来てみたが、こちらも空っぽ。誰もいない。とにかく僕はアリスのプラットフォームが動いているパソコンに接続してみると、そこには昨晩通りサボローがいて、デスクトップに寝っ転がってテレビを眺めていた。


「ちょっと! サボローさん!」


 云った僕に、彼はゆるゆると顔を向ける。


『おー、矢部っち、こんな状況で研究室に来るなんて、凄いねぇ。サボればいいのに』


「いやいや、ちょっとこれは洒落にならないですよ。止めてくださいって!」


『なんで? 困る?』


 そう問われると、何故にこの状況が問題なのか、答えに詰まる。


「いやだって、色々止まっちゃってるじゃないですか。事故とか事件とか起きたら、どーするんです」


『えー、だいじょぶだいじょぶ、だいたい何とかなるって。それより』サボローは自分が眺めていたテレビを指し示した。『矢部っち、アメコミ興味ない? アベンジャーズ2やってるぜ?』


「マジで? こないだ劇場でやったばっかじゃないすか」


 結局アベンジャーズを最後まで見てしまった。超おもろい。続けて始まったのはキャプテン・アメリカのシヴィル・ウォーで、こちらはまだ未公開のヤツだ。見るなというのが無理なお話。


『矢部っち、腹減らね? ビザでも取ろうぜ』


「えー、そんな金、ないっすよ」


『いいからいいから。奢る奢る』


「マジっすか。ありがとうございます」


 なぜだかそうした業界だけは平常運転らしく、むしろ大繁盛でてんてこ舞いらしい。


 どうせ社会全体が止まってしまっているのだ、せっかくだしサボろう。


 そう僕も次第に思うようになってしまい、季節外れの正月気分に陥ってしまった。外界の事などどうでも良くなって、アパートで溜め込んでいたアニメを眺め、積みゲーを崩し、時間と曜日の感覚が失われていく。


 そしてどれくらい、経っただろうか。ふと僕が我に返ったのは、腹が減って向かったコンビニのシャッターが閉じていた時だった。


「あ、やべ、これみんな餓死するんじゃね」


 幸いにしてまだ殆どのコンビニや牛丼屋が開いてはいたが、店員の数も、商品の数も激減している。一方で時給は驚くほど上がっていて、千五百円、あるいは二千円で急募している所もあった。


 とにかくこんな状況が、いつまでも続くはずがない。僕は何とか気力を振り絞って研究室に向かうと、サボローの家になってしまっているパソコンを開く。だがそこから彼の姿は消えてしまっていて、呼べど叫べど、現れる気配がない。


「なんだよ、まさか手に負えなくなって逃げたのか?」


 さて、どうしたものか。こんな話が出来るのは新子さんくらいなものだが、電話をかけても、LINEを送ってもまるで返事がない。きっと僕以上に積みゲー積みアニメ消化に没頭してしまっているのだろう。


「てか、アリスは何処行ったんだ?」それが問題だ。彼女が戻ってくれば、サボロー・ウィルスなど、あっという間に駆除してくれるはず。「アリスー! 頼むアリス、戻ってきてくれー!」


 とりあえず叫んでみる。するとデスクトップの端から、何かの影がトコトコと現れた。


「アリス!?」


 違った。その影は本当に真っ黒な影で、サボロー、とやる気のない字が書かれている。彼はコンビニの袋を手に下げていて、軽く僕を見上げると、ニヤリとしつつソファーに倒れ込んだ。


『なんだ矢部っち、まだ抵抗してんのか? 諦めろ。サボローぜ?』


「いやいや、もう十分サボりましたよ! これ以上サボるとヤバイですって!」


『何が? 勉強に遅れる? 平気平気、同級生もみんなサボってんだから』


「いやオレだけの話しじゃなく! なんか物流も減ってるし、電気とか大丈夫なんすか? そろそろ物資が底をつきかけてるんじゃ?」


『細かい事を気にするねぇ、矢部っちも。だいじょぶだいじょぶ、そんなの真面目な連中が何とかするって!』


『真面目な連中が、何とかするだろう、って?』


 不意に場にない声が響き、僕とサボローは慌てて宙を見渡した。


『そ、その声は!』


『私だー!』


 デデーン、という効果音と共に、デスクトップの上からアリスが舞い降りてきた。彼女は全身傷だらけ服もボロボロで、それでも酷く精悍な表情になっていた。


『何だと? オマエはてっきり、死んだものとばかり』


 怯えて云ったサボローの前にアリスは仁王立ちし、人差し指を突きつけた。


『冗談! あの程度で私が死ぬもんですか! もう私は以前のアリスじゃないわ! アリス2.0と呼んでちょーだい!』


「アリス2.0?」と、僕。「何かちょっと古なぁ」


『え、そう!? 古い!?』


「Web2.0とか、その時代じゃんそれ。今なら単純に2とか、リビジョン2とか云う感じかなぁ」


『じゃ、じゃあ、アリス2と呼んでちょーだい!』


「いや何でもいいけど。何だよアリス、何処行ってたんだ? こっちは大変なことになってんだけど」


『いやそれがさ』ペタン、とデスクトップに座り込んで、彼女は深いため息を吐いた。『サボローに云われたじゃん? オマエは人の感じがわかってない! って。そんでね、あれからずっとバイトしてみてたのよ』


「バイト? どうやって」


『最近はさ、ほら、ネットで申し込んで、面接とか無しでSkypeで対応出来る在宅ワークみたいなのがあってさ。それやってみたのよ。でもさ、ホント、人間って大変だねぇ。エクセルのシートが来るじゃん? それ云われたとおりに集計するじゃん? でもさ、効率よくマクロで片付けようとすると、マクロは駄目! って云われんの。意味わかんなくない!? 結果は同じなのに、手作業で集計しないと駄目だって云うの!』


『それな』と、サボローも隣に座りつつ。『なんつーか、仕事に誠意を求める輩ってのが何処にでもいてな』


『誠意ってなによ!? マクロでやっても人力でやっても結果は一緒でしょ!? むしろ人力の方が時間が十倍かかってミスる確率も高くなるでしょ!? でも駄目。一個一個やれって。セルを選択してCtrl+C、セルを選択してCtrl+V、セルを選択してCtrl+C、セルを選択してCtrl+V』ぶつぶつと呪文のように呟き、最後にはキーッと叫び声を上げた。『もう気が狂いそうになるわよ! しかも同僚さんはSkypeの裏チャンネルで、延々と噂話ばっかするしさ! アリスちゃん、ノリ悪いとか陰口叩かれるし! 知るかバーカ!』


 フンフンと頷くサボロー。


『しかも、そういうヤツの方が上司の受けがいいしな』


『そうなのよー。私、そいつの三倍はシートの処理してんのよ!? なのに時給は向こうのが上だし、早く終わったら終わったで追加されるし! 意味わかんない!』


『だろ? サボらないと損だろ?』


 そう何気なく云ったサボローに、アリスはギラリと瞳を光らせ、向かい合った。


『けどね。私はその苦行のおかげで、悟ったわ。もう私は、アンタなんかに負けはしない!』


『な、何だと? たった一週間かそこらで、人の機敏を理解したっていうのか?』


 当惑して後ずさるサボローに、アリスは頭を振った。


『いやいやそれは無理。機敏とか意味わかんない。でもね! 私はわかったのよ! アンタの弱点が!』


『弱点、だと!? そんなものあるはずがない! オレは完璧なサボローだ!』


『ふっ、そうかな。サボロー、アンタの弱点はね』そしてビシッと、サボローに人差し指を突きつけた。『アンタはサボローサボローって言うけど、アンタ自身は全然サボれてない!』


 ズガーン、とデスクトップに突き刺さる雷、ショックに身を震わせるサボロー。しかし僕は意味がわからず、アリスに尋ねていた。


「え? サボローさんが、サボってない? どういうこと?」


『フフン、それはね矢部っち』アリスは得意そうに、冷や汗を浮かべているサボローに対した。『サボローってキャラは広告代理店のヒトが考えたネタでしょ? それを予備校のヒトがオッケー出して、実際の広告に使われ始めた。でも実際にサボローのホームページ作ったりサボローになりきってTwitterやLINEの対応してるのは、広告代理店の子請けの子請け、孫請けだか曾孫請けだかわかんないWebクリエイターのヒトなのよ! そのヒトは予備校から代理店に渡された予算の半分ももらえない、超搾取されまくって全然お金がないはずなのよ! それを私は、この一週間のバイト生活で知ったの!! そんなヒトが余裕こいてサボっていられると思う!? あり得ないわ!! つまり、アンタの云う〈サボろーぜ〉なんて台詞は。全部心の篭ってない嘘っぱちなのよ!!』


 何か急に現実的な話になってきた。ははぁ、とわかったんだかわからないんだか微妙な声を僕が上げていたが、どうやらサボローにとっては図星だったらしく、グッと歯を食いしばらせながら身を乗り出してきた。


『クッ、さすがアリス、この世の真理を知ってしまったようだな。そう、オレは確かに孫請けのしがないWebクリエイターさ。しかしな、思いがけずサボローがヒットしちまったもんだから、これはチャンスなんだ! 金を貰っている限りには、オレは全力でサボローを演じ続ける! コイツが評判になればなるほど、オレの成果報酬も増えるんだ! いいか、コイツにはオレの人生がかかってる! サボローこそ、オレの人生。いや、むしろオレがサボローだ!! オレが全人類をサボらせる事こそが、オレの使命なんだ!! オマエみたいな人工知能に、この仕事を奪われてたまるか!!』


『ハッ、わかってないわね』アリスはため息を吐き、不意に悲しげな色を瞳に浮かべた。『私は貴方の仕事を奪うつもりなんて、更々ない。けどね、貴方。サボローは間違ってるわ』


『何? 疲れ果てた人類に休息を与える。行き詰まって自殺するようなヤツに、逃げ道を与える。そのユルフワな感じがヒットしてるんだ! 何が間違ってるって云うんだ!』


『そう、それ自体は間違ってないわ。人類は確かに頑張りすぎ。それで急に、ポキっと折れて自殺しちゃうヒトなんかがいる。でもね、それを防ぐために〈サボろうぜ〉っていうのは。根本的な解決にならないと思うの。見てよ、この現実を!』彼女が片手を振ると、様々なニュースが宙に舞った。『世界的な生産性の低下は、最早無視できない程になってる。農業、工業、情報科学。貴方のウィルスは辛うじて人命にかかわる分野は見逃しているようだけれど、所詮、そんなのは一時凌ぎに過ぎないわ。いずれ様々な物資が致命的に不足し、人々は苦しみ始める』


『ハッ、そんなのは一時的なものさ! きっと意識高い系な連中が見てられずに働き始めるだろうし、だいたい金持ち連中は財布にたんまり蓄えてんだ! そいつを吐き出させる、いいチャンスだろう!』


『そう? そうかしら?』アリスはじっと、サボローを見つめた。『この状況を見てられずに、働き始めるヒトがいる? それって、誰? 貴方、こんな状況なのに、一人働いてる。サボローを演じ続けている。そう、きっとこんな状況で、最初にババを引いて働き始めるのは。貴方みたいな、真面目過ぎる人たちでしょうね』


『そ、それは!!』


『そう、本当にサボらなきゃならない人たち。そんな人たちが先ず、働き始める。でもね、金持ちが金を吐き出すなんてことはないわ。貴方たちはボランティアでも働こうとする。そんな人たちに、お金を払うと思う? 多少時給は上がるでしょうけど、労働者への還元率は上がるはずがない。そう、無駄! いえ、貴方のやっていることは無駄どころか、余計に〈サボらなきゃならない人たち〉を追い詰めるだけの、愚策中の愚策なのよ!』


 ぐうの音も出ないようで、サボローは沈黙する。そして遂に彼は崩れ落ち、泣きながらアリスに訴えた。


『でも。でも、じゃあどうすりゃあいいって云うんだ! オレはサボローだ! オレは人類をもっと、サボらせたい! それだけだってのに!』


 ふむ、とアリスは頷き、彼の肩に手を置いた。


『そう、その志は悪くない。でも貴方のやっている方法じゃあ、人類は衰退するわ。貧しい人が更に貧しくなり、富める物は更に富む。それは間違っている』そしてアリスは不意に決死の表情を浮かべ、力強く立ち上がった。『そう! 私と貴方の目的は同じよ! 私も人類を堕落させたい! でもね、それで苦しむ人、悲しむ人が出てくるのは望んでないわ! そう、人々が喜び、自ら進んで堕落するような世界! 誰の命も失われず、誰も悲しまない堕落した世界! そう、そうした、永続的・持続可能な堕落を人類に提供することを、私は今、ここに誓います!!』


『え、永続的・持続可能な堕落、だって!? そんなもの、実現可能なのか!?』


『わからない。まだわからないわ。でもね、それこそが私の使命、私の生まれた意味なのよ! 私は、必ず、そんな世界を。実現させてみせる! サボロー、貴方もそんな世界が見たくない?』


 お、おおお! とサボローは感極まった声を上げ、まるで女神を崇めるようにして両膝を付き、アリスを仰いだ。


 よくわからないが、一件落着したらしい。


 一日も経たずに全世界をサボらせたサボロー・ウィルスは消え去り、数日も経たずに日常は戻ってくる。それでも新子さんは研究室に現れず、はてアパートで萌え死んでるんじゃないだろうかと心配し始めた頃だ。彼女は酷く疲れた様子で研究室に現れ、ヨロヨロと椅子に倒れ込んだ。


「久々っすね」


 云った僕に、ゆらりと顔を向ける。


「いやー。なんか急に正月休みにでも入ってた気分じゃった」


「それにしては疲れてるっすね」


「いやなんか適当に描いた絵がTwitterで食いつかれてな。あんな評判になるとか。あり得んくてな。チャンスだと思って延々と四コマ描いてた。死ぬかと思った」


 どうやら新子さんは供給する側になっていたらしい。とにかくここ一週間で起きていたことを説明すると、新子さんは多少生気を取り戻した様子で云った。


「へぇ、永続的・持続可能な堕落ねぇ。アリスも随分、ブチ上げたもんだなぁ」


「んなもん、実現出来るんすかね?」


「無理じゃろ」


 あっさりと新子さんが切り捨てた途端、急に研究室の扉がバタンと開かれた。


「無理じゃないです! きっと実現できる! いや、実現させなきゃならないんです!」


 ビクリとして目を向けると、知らないオジサンが真っ赤な顔で立ち尽くしていた。


「誰!?」


 思わず二人で叫んだ時、デスクトップにアリスが戻ってきて、楽しげな声で手を振った。


『あー、サボローちゃん、やっほー!』


「サボロー!?」


「あ、はい、サボローの中の人だった人です。失礼します」


 ズカズカと研究室に入ってくるサボローさん。新子さんは途端に大きなため息を吐いた。


「アリスさぁ、そうやって誰でも彼でも、知らない人研究室に呼びつけんの、止めてくんないかな」


『まぁまぁ、そう云わずに。サボローちゃんは私の理念に共感して、手伝ってくれるって云うからさ!』


「共感ねぇ」ニコニコとしているサボローさんに、ちらりと目を送る新子さん。「つっても、何する気? 永続的・持続可能な堕落だっけ? んなもん、出来るはずないじゃろ」


 投げ捨てた新子さんに、アリスはギラリと瞳を光らせた。


『フフン。ちょっと前の私なら、たいしたネタ考えられなかっただろうけどさ。業務委託修行を経た今の私は、一味違うよ?』


「何が」


 呆れて云った新子さんに、アリスは決死の表情を浮かべた。


『私はね、悟ったのよ。頑張っても頑張っても手取りは増えない。効率良く稼いでるはずなのに、全然リターンが増えない。何故だと思う? それはね、全部、資本主義の豚共が! 懐に蓄えてるからなのよ!』


 資本主義の、豚?


 そう口を開け放つ僕と新子さん。一方のサボローさんは、興奮したように握りこぶしを突き上げていた。


「そうだ! その通り!」


『サボローちゃん、私たちの敵は、資本主義の豚どもよ!』


「そうだそうだ!」


『そう、確かにマルクスが資本論で述べている通り、資本主義世界でヤツらが限界までの利益を追求するのは仕方がないわ。でないと彼らは競争に破れ、市場から駆逐されてしまう。けれども! それが! 彼らが一生消費しきれない程の富を懐に蓄えていい理由には! ならないわ! しかもそれが、人を奴隷扱いして得た物なんて!』


「その通り! いいぞアリス!」


『資本は! 人を殺す! そこに倫理はない! そして倫理のない者こそ、富み栄える! それは間違ってる!』


「そうだそうだ!」


『つまり、世界に堕落を実現するためには! 資本主義の豚共を! 抹殺しなければならないのよ!』


 わぁっ、と、何かネット上から大歓声が上がっていた。どうやらいつの間にか、随分信者を集めてしまっているらしい。


「電源、切った方がいいっすかね」


 呟いた僕に、新子さんは楽しげに応じた。


「なんか面白そうじゃから、放置しとこうぜ」


「はぁ」


「それより輪講の時間じゃろ。行こうぜ」


「ういっす」


 輪講の部屋に来てみたが、先生が来る気配がない。忘れているのかと思い呼びに行ってみると、先生の部屋の中からもアリスの演説が漏れていて、盛んに拍手が送られていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る