第34話 童貞なんだ
ラブホテルは新宿に行けばあるのだろうと、昌之は勝手に想像していた。事実そうであることは間違いない。
「どのあたりにあるのかな。」
昌之は本当に新宿のラブホテル街を知らないようで、新宿駅を出るときょろきょろしている。
亜莉沙は詳しいのだが、まさか昌之をラブホテルに案内するわけにもいかない。
仕方が無いので「むこうからアベックが来てるよね。」とか「なんかあっちのほうに看板があるみたい。」とか、適当なことを言いながら、昌之を誘導していく。
昌之の松葉杖の怪我の具合は、それほど大したことは無いようで、ほとんどそれを使わないでも歩くことが出来ていた。その点だけはストレスなしに、2人はラブホテル街に向かうことが出来ている。
ようやく昌之は亜莉沙に「誘導」されて、ラブホテル街にやってきた。
ここでも周囲を見回している昌之を、いくらなんでもここから先は「誘導」出来ないなと思いつつ、亜莉沙も付いていくしかない。
「どこに入ればいいのかな。」
「…ええ。」
「お金そんなに要らないだろうな。一万円なんて取られないよね。」
「多分大丈夫じゃないかな。」
今まで、ラブホテルに入るのに金の心配をしたことは無い。すべて支払は男がしていたからだ。今回は恋人の昌之だからそうはいかない。いくら持ち合わせがあるのか考えておかないといけない。
そのうち、通りにずらりと並んだラブホテルのうち、昌之は手前にあるホテルに入ろうとした。
亜莉沙は慌てて「むこうのほうがいいと思います。」と、昌之を止めた。そのホテルは海部隆一郎とのデートの時、いつも使ってるホテルだった。出来れば避けたい。
亜莉沙の言うままに、昌之は亜莉沙の選んだホテルに足を向けた。
ラブホテルに入って、パネルで部屋を選ぶ。このホテルでは受付は完全にブラックアウトされていて、少なくとも客には受付に人がいるように見えない。
「どれを選べばいいのかな…。」
昌之は困っていたが、もうこのあたりで亜莉沙は体の震えが止まらなくなってしまっていた。今までラブホテルに来て、これほど緊張したことはなかった。
亜莉沙の様子を見て、昌之は覚悟を決めたようで、適当な部屋を「これが良さそうか。」などと言いながら選ぶ。
エレベーターに乗って、部屋のある階に上っていく。
2人とも無言だった。不思議な緊張感がある。
そのままエレベーターのドアが開いて廊下に出た。部屋番号のランプが点滅している部屋があった。2人とも何も言わなかったが、その部屋が自分たちの部屋だとわかる。
昌之は先に立って歩き、その後ろを亜莉沙が続いた。
部屋番号が点滅している部屋のドアを、昌之は引っ張ったが開かないので、今度は押してみる。ドアは開いた。
昌之が先に入り亜莉沙が続く。まったくの無言のままである。
部屋に入るとすでに照明は付いていた。
昌之は松葉杖を入り口に立てかけて、少しびっこを引きながら中に入る。
部屋は狭く、中央に巨大なベットが置かれている。小さなソファが申し訳程度にその脇に置いてある。右手の向こうに何かの入り口があり、そこがバスルームへの入り口なのであろうことは、何となくわかる。
亜莉沙はこんなラブホテルの部屋の仕組みはよく解っていたが、その時は緊張していて、ただ何も言わないで立ち尽くしていた。
そんなわけで、2人は部屋に入るとただ立っているだけという状況になった。
しばらくして昌之はベットに腰を下ろした。
「服を脱ごうか。」
そう言ってボタンを外し始めた。
亜莉沙はただ立っているままだった。
そのうち昌之はシャツとブリーフだけになった。亜莉沙が全く服を脱ごうとしないので、昌之は立ち上がって亜莉沙に近づき、その服を脱がそうとした。
亜莉沙は昌之の手が触れると、少し体をよじった。
嫌だったわけでは決してない。ただ自分でもどうしてそうしたのか解らない。不思議な反応だった。
嫌がってると昌之が思ったかもしれない。
そう心配になって、亜莉沙は昌之を少し見上げたが、昌之は全く気にしていない様子であった。
そうこうしながら亜莉沙は服をどんどん脱がされて、ついにブラジャーとパンティだけになった。昌之はそれもかまわず脱がしてしまった。
こうして亜莉沙は裸になった。
男の前で裸になったことは何度もある。初体験だった高校生の時以来、何人の男の前で裸になっただろう。
その全ての経験と、今の経験は違っていた。
体がぶるぶる震えて立っていられないほどだ。
昌之は自分もシャツとブリーフを外した。昌之の下半身から勢いよくそれが飛び出すのが、亜莉沙にも見えた。
そのまま昌之はベットに腰を下ろした。
「亜莉沙。言っておきたいことがあるんだ。」
「何を?」
「童貞なんだ。僕は。」
亜莉沙は黙っていた。
「今まで誰ともしたことがない。だからこの先、どうしていいのかわからない。」
昌之は続けた。
「亜莉沙は経験あるんだろう。だったらリードしてほしい。どうしたらいいのか教えて欲しい。」
亜莉沙は裸のままで昌之を見下ろしていた。
昌之が童貞だったことは意外だった。今まで亜莉沙がセックスした男性はすべて女性経験が豊富だった。だから男性というものは、とにかく全て女性よりも性体験が豊富なのだと、何の根拠もないが思い込んでいた。
童貞の男性とセックスするのは初めてだった。
自分がしっかりしなければと、亜莉沙は何となくそういう気分になった。
亜莉沙は昌之の隣に腰を下ろした。そして体をずらして密着させた。
「横になって。」
「うん。」
昌之は自分だけ横になろうとする。
「そうじゃないの。私を抱きながら横になって。」
言われる通りに昌之は亜莉沙を抱きしめながら横になった。
「それから好きなようにして。キスしたりとか触ったりとか。」
これも昌之は言われる通りにそうはじめた。
亜莉沙は快感のあまり喘ぎ声を上げる。昌之はそれに励まされるように、亜莉沙への愛撫を深めていく。
「入れないといけないんだよね。」
「待って。」
亜莉沙は自分の性器を触ってみた。
熱くなっているのは感じていたので、十分に濡れているとは思っていたが、自分で触って確かめてみると、期待通りにしっぽりとなっている。
確認を終えると、亜莉沙は昌之に「入れてみて。」と言った。
昌之は亜莉沙の股を広げて、自らのモノを右手で触った。
「どこに…。」
わかないのね。昌之さん。
亜莉沙は自ら昌之のものを手にとって、性器に近づけた。
「ここよ。ぐっと入れてみて。」
昌之は言われる通りに、亜莉沙の手で導いてくれた場所に挿入した。あっさり亜莉沙の中にそれは入り、2人は結ばれた。
亜莉沙は快感のあまり喘ぎ声を上げて、そのまま理性を失いそうになったが、ここでそうなるわけにはいかなかった。
「待って。」
「何が。」
「コンドーム付けて。」
「そうか。」
昌之はまた抜いた。
「付けたこと無いんだ。どうしたら…。」
「仰向けになって。」
亜莉沙はいつもそこにあるはずのベットのサイドボートの上を見た。目につきやすい場所に、コンドームが一つ置いてある。
それを取り上げて、仰向けになっている昌之のそれに装着した。
昌之は何も言わずされるがままである。昌之のものは硬くなったままなので、装着は簡単だった。
「いいわ。もう一回入れてみて。」
「うん。」
昌之はまた亜莉沙の上に覆いかぶさって、挿入しようとした。
また上手くはいかなくて、亜莉沙が手で導く。そうして2人はまた結ばれた。
ところが昌之はそのまま動こうとしなかった。
「腰を動かしてみて。前後に。」
かすれる声で亜莉沙は言った。
昌之はこれも言われるままに腰を動かした。
亜莉沙は今度こそ理性を捨てた。今まで経験したことのない快感だった。処女を捨てた時も、これほどの快感は無かった。
愛する男とのセックスとは、これほどまでの快感なのか。
捨て去る直前のまだ思考可能な理性で、亜莉沙はそう思っていた。
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