第27話 亜莉沙さん。阿弥陀如来様になってください。
「亜莉沙さん。阿弥陀如来様になってください。」
「はあ?」
海部隆一郎の言葉に亜莉沙はそう答えるしかなかった。
海部とのデートは、今ではほとんど有料のボランティアの気分だった。
相変わらず海部は全く勃起せず、したがって亜莉沙を裸にして、弱く抱きしめたり舐めまわしたりする以上のことはしない。そうしている間に読経する癖も、これもいつもの通りだった。
それでも海部は十分満足しているようで、デートの後しばらくすると会いたいと、必ずメールが入るのだった。
亜莉沙は亜莉沙で、おちんちんを入れてない以上、これはセックスでは無く昌之も裏切っていないと思っていた。
海部は一度、裸で横たわる亜莉沙の顔を覗き込みながら、心細そうに聞いたことがある。
「亜莉沙さん。…その、満足出来てますか。」
海部は入歯を外したせいで、ろれつが回らなくなった声でそう言った。
「ええ。ステキですよ。」
「そうですか。いや、あなたのような若い女性は、…その、絶頂感を味あわせてあげないといけないと聞いているもので、亜莉沙さんは、ちっとも絶頂になってないようですから。」
「そんなこと無いですよ。今のままで十分満足してます。」
「そうですか。そう言っていただけると、私も安心できます。」
どうも世の中の男性には、セックスの時、必ずイカせないといけないと、義務のように思い込んでいる人がいるらしい。
少なくとも亜莉沙はそうではなかった。
セックスは嫌いではないし、だからこそ海部とも会っていられるのだが、特にイキたいと思っているわけではない。これまでの亜莉沙のセックス経験でも、イカなかったからといって、不満を感じたことなどなかった。
ただ、自分を満足させてないのではないかと不安そうな海部の表情を見ていると、なんだか可哀そうになってくる。
海部は僧侶だけあって、根が正直で優しい老人なのだ。もう逢わないと言って、がっかりさせるのも悪い。それに僧侶に辛くあたってバチが当たるのも怖い。
さらに海部とのデートは、亜莉沙に修学院女子中等科・高等科で経験した老人ホームへのボランティアを思い出させた。
寒い冬の日に老人ホームを訪問して、皆で歌を歌ったり話し相手になったりした。その時は、自分たちは善い事をしているという満足感に浸っていたものだ。
自己満足と言われればその通りだが、それは間違いなく善い気分でもあった。またふたたびそんな気分になれるのが、海部とのデートだった。
一方で、老人の海部が若い自分とのデートで、妻を亡くした無聊が慰められているのは、これも間違いなかった。
これが僧侶の海部がときどき口にする、功徳を積むということなのかもしれない。仏教のことはよく解らないが、亜莉沙はそう解釈することにした。
亜莉沙は裸でベットに寝ころんだまま、上から覗き込んでいる海部の坊主頭を両手で包み込むようにして、海部にキスをした。
海部の唇は歯が無くて、舌を入れてみると不思議な快感がある。
そのまま亜莉沙は手を下に伸ばして、海部のおちんちんをいじってみた。
いつもの通り、まるで水を半分ほど入れたコンドームのようにしだれている。亜莉沙が何をしようとも勃起しないのは、これまでの経験でわかっている。
「何をするんです。亜莉沙さん。」
それでも海部は感じるらしく、淫らな笑い顔になる。
亜莉沙はうふふと笑うだけである。
「こうしてみると、亜莉沙さんは阿弥陀如来様のようですね。」
「そうですか。阿弥陀如来様ってよくわかりませんけど。」
「うちの寺にはあるんですよ。ご本尊ですよ。今度見せてあげましょうか。写真を持ってきますよ。大変有難いお姿をしています。
まるで亜莉沙さんのように。」
亜莉沙はまた「そうですか。」と返事をした。
どんなに亜莉沙が阿弥陀如来様に似ていようが、とにかく海部は全く勃起しないまである。
そうしているうちに、海部は亜莉沙とのデートでの、別の楽しみ方を思いついてきた。
亜莉沙にいろいろな格好をさせるのである。
「四つん這いになってください。犬のような恰好をしてみてください。」
亜莉沙はこれは正直嬉しくなかったが、優しい性格の海部は、亜莉沙が嫌がっていると解ったらしく、すぐにやらなくなった。
犬の恰好の変わりに海部は「股を広げてみてください。ののさまを見せてください。」
亜莉沙はその「ののさま」というのが何のことか解らなかったが、海部に説明されて、自分の性器のことだと解った。
言われるままに亜莉沙が股を開いて、その「ののさま」を見せてあげると、海部はえらく感激するのである。
「おおっ、ののさまじゃ! 亜莉沙さんのののさまじゃあ!」
この時、海部は数珠玉でも取り出して自分の性器を拝み始めるのではないかと思ったが、さすがにそれは無かった。
ただ、いつものように読経はしているようで、入歯の無い口で、しきりになんまんだぶーと言っている。
そしてその次に言い出したのが、阿弥陀如来様になって欲しいという要求であった。
さすがにどういう格好なのか、亜莉沙には見当もつかなかった。
「こういう格好です。」
そう言って海部が取り出したのは、いつも持っている革製の古いバックの中に収まっていた、大きな写真集である。表紙には海部が住職を務めている寺の名前が書いてあり、どうやら海部の寺の写真集らしかった。
海部はそれを両手で広げて、最初のほうのページを開いた。
2ページ見開きに大きな仏壇のようなものが写っている。
「本寺の主儀檀です。これがご本尊の阿弥陀如来様です。」
みると立像の仏像がその真ん中に安置されている。亜莉沙もこんな形の仏像を、何度か写真などでみたことがある。
「この恰好するんですか。」
「そうです。このベットの上で。」
「はいはい…。」
いくらなんでも喜んでということは無いが、まあ海部の要求に応じてあげる気になった。とにかく四つん這いになって犬の恰好よりは良い。
とはいえ、この写真からはその阿弥陀如来様の恰好は解りにくい。
海部が手をこうしてとか、足をこういう感じで組んでとか言うのを聞きながら、立ちにくいベットの上で亜莉沙はなんとか阿弥陀如来様の恰好になることができた。
もちろん亜莉沙は全裸のままである。
とにかく立ちにくい。長い事この恰好ではいられない。
海部はいたく感激しているようであった。
「おおっ、阿弥陀如来様じゃあ!」
と叫んだまま、声も出なくなった。
亜莉沙はベットの上に立っていて、海部はその足元に立っているので、阿弥陀如来様の亜莉沙を見上げる形になる。
しばらく感激の面持ちで亜莉沙を見上げていた海部は、こんどは鞄の中から数珠玉を取り出した。
そして今度こそ亜莉沙を拝み始めた。さらに口でもぞもぞと読経している。南無阿弥陀仏ではなく、何か別の読経をしているようで、亜莉沙も聞いたことが無い言葉が出てくる。
嫌ではないがなんだか奇妙な感じである。
読経はすぐに終わった。
「ありがとうございます。亜莉沙さん。こんな恰好をさせて嫌ではありませんでしたか。」
「いえ、まあ…。嫌ということはありませんよ。」
「亜莉沙さんは、本当に阿弥陀如来様なんですね。」
そう言って海部は亜莉沙に近づいて、いつものように裸の亜莉沙を抱きしめた。
海部は涙をこぼしていた。
「今生で、まことの阿弥陀如来様を拝めようとは…。」
そんなに嬉しいのかしら。まあ、海部がすごく喜んでいるらしいし、それは自分にとっても不愉快な気持ちではない。
海部は亜莉沙の乳房を吸い始めた。
亜莉沙はベットの上に立っていて、この部屋のベットはかなり低いので、海部の口が丁度亜莉沙の乳首の位置にある。乳首を入歯の無い唇で吸われるいつもの感覚の他に、海部の流す涙が亜莉沙の乳房に触れていた。
自分の体を撫でまわしながら、海部はなにかぼそぼそとささやいている。読経では無いようだった。ゆっこ、ゆっこと聞こえる。
亜莉沙はそれが「結子」だと解った。
この人、奥さんの事を思い出してるんだわ。
そう思うと、この海部という老人が今までに無く可哀そうに思えてきた。そして愛おしくも思えた。
そう思うと、海部の歯の無い口で乳首を吸われながら、いいようの無い快感が亜莉沙に襲いかかってきた。あまりの快感に亜莉沙は喘ぎ声を上げた。今まで自分がこんな大きな喘ぎ声を上げたことがあるだろうかと思えるほどである。
海部に抱きしめられ、言いようのない快感を感じながら、なんだか本当に自分が阿弥陀如来様になっているような気すらした。
「もう、立っていられません。」
「すみません。横になってください。」
2人は横になった。
亜莉沙はその時、海部の下半身を触ってみた。
海部のおちんちんは、すこし硬くなっているように思えた。
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