第5話 白薔薇女子大の女の子たち

 白薔薇女子大の子たちとは、ほとんどキャパ友と言っていい。彼女たちは渋谷のオープンカフェで、亜莉沙と舞美を待っていた。

 白薔薇女子大は都内では屈指の名門女子大として通っていて、渋谷はそのキャンパスからほど近い場所なのである。

 亜莉沙と舞美がカフェに着いたのは、6時ちょっと前だった。それでもこの時期、陽は高くて明るい。


 白薔薇女子大の子たちは4人で、外に展開しているテーブルの一つを占領していた。

 亜莉沙たちは「すみません。」とウェイトレスに言いながら、椅子を2つ借りてきて、テーブルを囲むように座った。

 ここの子たちとは気の置けない話が出来る。キャバクラの話ももちろん出来る。

 そもそも亜莉沙が彼女らと知り合ったのも、同じ店にいたからである。

 亜莉沙は長くバイトを続けるつもりで入店したキャバクラで、あまりに待遇が悪くすぐに辞めた店があったのだが、そこに今日のメンバーの1人がいたのである。

 店を辞めても情報交換で連絡を取り合うようになり、すぐに他の白薔薇女子大の子たちとも繋がりが出来た。


 修学院大学と違い、白薔薇女子大は女子大のせいなのか、この手の風俗バイトの話もかなりあけすけに出来る。大学でも普通にキャバクラや風俗バイトの話がされているようで、妙に格式張る共学の修学院とは違う。

 そのあたり、亜莉沙も舞美もうらやましいと感じていることでもある。

 1人は赤前沙織といって、彼女が亜莉沙とキャバクラで知り合って他の3人とのつながりが出来たきっかけになった子である。


 彼女たちにはお見合いの話はしていない。

 隠したつもりは無い。ただ同じ大学では無くそれほど会う機会が無いので、話すきっかけが無かっただけなのだ。

 でも今日はそうはいかなかった。


「ちょっと、本日の大ニュース。亜莉沙お見合いってしたのよ。」


 といきなり舞美が話を振ってきた。

 ここからは修学院大学の時と、同じような会話が展開していった。


「相手の男、五段階で評価してみて。」


 ここは白薔薇女子大の子たちを怒らせないように、亜莉沙は昌之の評価を、五段階評価で2とした。

 沙織は笑いながら言った。


「2かぁ。じゃあ今日はおごらなくていいか。」


「そう。五段階で2だから勘弁。」


 そこで皆笑い転げる。

 話題はしだいに大学のことや、それぞれの個人的な話。「じゃ、今度紹介してあげる。」と言われた、まだ知らない友人のことなどになっていった。


 白薔薇女子大は、都内屈指の名門お嬢様女子大と言われることもあり、共学の大学が主催するインカレに入っている学生が多い。

 特に東大のサークルに所属している白薔薇女子大生は、少なくないと沙織も言っている。

 やはり東大生をゲットしたいわけなのだが、そのためにはテニスやら音楽やらの東大生が作ったサークルに所属しないといけない。そうなると、たとえばテニスサークルに所属すれば、ウェア代や合宿の費用など、なにかと金がかかるのである。

 やはりバイトは欠かせない。

 白薔薇女子大のキャバクラバイト率はかなり高いようで、沙織は「やってない子はいない。」とつねづね言っている。

 そのせいなのか、ここの女子学生はかなりあけすけにキャバクラの話をするのである。

 途中からは、そのキャバクラ店の情報交換になった。

 白薔薇女子大の1人が言うには、彼女がバイトしていた下北沢の店では、黒服の態度がでかい。ほんと不愉快。ありえないということらしい。

 亜莉沙の家からは下北沢は遠い。そこには行かないことにしようと、すぐに決めた。


 そのうち彼女らの1人が、ソシアルパーティというものの話をはじめた。

 亜莉沙はこれまで聞いたことが無い言葉である。

 話をはじめた白薔薇女子大の子の話では、男性と女性が集まるパーティで、男性はたいてい30代から50代くらいが多い。女性は20代がほとんどだという。

 参加費は男性持ちで、女性は原則タダなのだそうだ。


「むしろ、お金もらえるよ。だって女子大生の参加者はサクラばっかだもん。」


 彼女はそう言った。

 その話を沙織が継いだ。


「女の子は20代がほとんどだと思う。もっと歳が上の人もいるかもしれないけど、みんな若く見えるようにして来てるよ。

 男は60歳代の人もいるけど、なかには20代で結構イケてる人もいるのよね。

 ようするに男がヤル相手さがすパーティね。」


「どうして20代の男の人が、ヤル相手さがすパーティに来るの。」


「なんか勘違いしてるわけ。真面目に彼女探すための出会いパーティだと思って来るのよ。

でもそういう男はねらい目だよ。この手のパーティは男性は結構、参加費が高いみたいだから、それくらいのお金払える男の人で、スティディに付き合う人を探してるんなら、こっちも玉の輿ゲットじゃん。」


沙織はあっさり言った。

白薔薇女子大の子たちの話では、こんど開かれるソシアルパーティで女の子が足りない。探してくれと、知人の主催者側スタッフに頼まれているのだという。


「亜莉沙と舞美も行ってみない。お金もらえるよ。」


「こっちがもらえるの。」


「そう。今回はね。女の子が足りなくて主催者が困ってるのよ。それにソシアルパーティのサクラのバイトは結構いいよ。」


 沙織はけっこう経験があるらしく、ソシアルパーティに詳しい。


「パーティによって金額が違うけど、こんどのパーティは一回1万円。

 パーティに出て、お酒飲んで男の人と話するだけ。

 …亜莉沙と舞美、もう20歳以上だよね。飲めるよね。」


「うん。年齢制限ってそんなの厳しいの?」


「意外にね。だってつまらないことで警察沙汰とかになったら、主催者もいやじゃん。」


 亜莉沙はそんなパーティの話は初めてだったが、少し興味を持った。

 いずれにせよ、危険なものではなさそうだった。

 沙織はパーティの日時と集合場所を教えた。


「人数に制限はないから、当日でも都合がつけば来てもいいはずだよ。

 でもこっちも主催者に連絡しないといけないから、明日までに私にどうするか連絡して。」


 亜莉沙はうなずいた。

 亜莉沙はもうソシアルパーティにかなり関心を持ち始めていた。どんなところなのか行ってみる価値はありそうだった。沙織のSNSの連絡先はすでに知っている。

 ただ昌之とのデートの日時が決まってなかった。それを決めてからでないと返事が出来ない。


 とりあえず昌之の都合を聞かないと。

 亜莉沙はそう思っていた。

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