第2話

「嫌だ怖い怖い怖いよぉ…」


「怖いよぉ、怖いっ」


「怖い…」



怖い。怖いよ、怖い。真っ暗な闇の中を手探りで歩いているみたいだ。何も見えないどこにも行けない。

足元に落ちたはずの自分の血すら見えない。


ぜえぜえと息が切れた。のは、自分の耳に聞こえてからやっと気付いた。




何が世界はもっと広いよ、だ。

何が生きてればいい事あるよ、だ。

何がもう少し頑張ってみよう、だ。





鼻水か涙かわからないものが口に流れ込んできて

しょっぱい感覚をそのまま涎と一緒に吐き捨てた。



いつもよりずっとずっと強い風が吹く大荒れの台風の日の中15階のベランダから下を覗く。




体が震える。怖いよ、痛いよ嫌だよもう嫌だよでもでもでもでも

もう 何もかもこりごりなんだ。



「ほ…と わ、んっごく、怖い、」




涙と痰で絡んだ声は滲んでつっかえてあんまりにも情けなくて自分で笑ってしまった。




そうだよ私、ちゃんと生きたんだよ

頑張ったんだこれでも


ははっ




いつの間にかしゃがみこんでいた自分の震える足を叩いて起こし傍のゴミ箱を踏み台にするために上に乗る。




あぁこんなに泣いたらメイクの意味も何もなかったな

今までしてきたピアノもダイエットも生きるために使った食費やお風呂や洗顔や睡眠も何も何も意味がなかったな。





「ぁよなら、あたし」





んんっと柵から身を乗り出して右手でグッと柵の棒の部分を押した。








ぶわあっと体が宙を舞う。







クルクルと回転する夜の景色がぼやけた視界に映る。




そういえば。


明日、コンビニ新商品発売の日だ

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僕の不安定なさくらちゃん 雪野コハル @blossom06m

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