TSP

@kakunidayo

第1話

ちゅんちゅんちゅん

とろんとろん

ちゅんちゅんちゅん

とろんとろんとろん


小鳥のような囀りに、雑音のような忌わしい音が混ざる…


「ろ…じで…ろく…です」


?「うーん?」


何かを伝えようとする声に、少女が眼を開け始める…


「ろくじ…す…ろくじです…6時です6時です!!」


雑音が意味を帯びてくる。

六時…今の時刻は六時…

目の開き切らない少女であったが


?「六時!?」


雑音を理解したと同時に飛び起きる。


?「やばい!!!!」


その一瞬で誰もが寝坊したことを理解出来たであろう。

…少しだけ少女の時間が止まる


シュバ


ベットから起きあがるともの凄い速さで着替え始める。

どことなくなれたような…手際の良い動きだ。


バタッ ダンダンダンダン


?「お母さん!朝ごはんいらないからー!」


お母さん「こら!遙!毎日毎日!牛乳だけでも飲んできなさい!」


遥「いらない!今日は警察の筆記試験だから!」


二階の部屋から降りてきたいつもの嵐を見送るお母さん。呆れたような…寂しいような顔をして見送った。


ギリギリギリギリキキキキキキ


遥「はぁはぁ…なんとか間に合いそうかな…」


自転車をこぐ少女

息も絶え絶えだが、急がなければいけない

今日は就職活動で初めての筆記試験の日だった。

警察に憧れる遥にとっては大切な…大きな1日なのだ。


遥「駐輪場はここ!はぁはぁ…」


前日に調べてあった場所に自転車を止める。鍵もかけずに急いで会場に向かう。


タッタッタッタッ


ヒール特有の高い音を響かせて走る

もう、身だしなみや汗なども気にしていられない時間だったのだ


ウィーン


遥がドアの前に立つと勝手に扉が開く

目の前には警察の制服を着た女が立っていた。


遥「はぁはぁ…はぁ…あの、わわわたくし…」


急いでいたからであろうか、前日に何回も練習した言葉に詰まってしまう


お姉さん「おはようございます。」


お辞儀をされる

遥は正反対の対応をされた。

落ち着いた態度、礼儀正しい会釈

急いでいる遥でも理解できた。

これが社会人なのだと。


お姉さん「受験生の方ですね。どうぞ、左手の扉よりお入りください。」


綺麗な黒髮、満面の笑顔

世間で言われる清楚系という言葉が似合う。


遥「あ、は、はい!は本日はやよよろしくおねかしす…」


自信なく、小さな声で返事をする…



遥「はぁ〜…今日は散々だったな」


大きなため息が落ちる

太陽が目をこすり、眠ってしまいそうな時間に遥は歩いていた。


遥(試験も集中できなかったし、自転車も盗まれるし最悪…)


警察署の駐輪場だったにも関わらず、自転車は盗まれてしまった。

警察に言おうと思ったが、就活生。

また今度にしようという結論に至った。

気分転換に音楽を聴きながら歩こう。遥はスマートフォンで音楽を聞いていた。


トゥルリン


演奏が身を潜め、異音がする。

遥は携帯をいじりだす。


遥(就活メールかな?)


遥の予想は当たっていた。

面接や説明会などの後には心無いメールが届く。


遥(あれ?そんなまさか!)


メールは警察からだった。

本日はありがとう

その文字だけを期待していた遥。


「明日の7時にきて下さい。お越し頂きましたら担当の者に面接者である旨を伝え、担当者に神矢の名前をお申し付け下さい。」


内容は明日の面接について。

どうやら遥は面接に進めるようだ。


遥「やった!!」


重かった口がついつい開いてしまう。

さっきまでの近寄りがたい雰囲気が一転する。

遥は音楽に身を任せ、スキップしながら家に帰っていた。


遥「ただいま〜♪」

お母さん「おかえりなさい。ずいぶんご機嫌じゃない。」

遥「まあね♪」

お母さん「朝の様子とはまるで違う。何かいいことあったの?」

遥「なんにもないよー、明日5時半に起こして!今日はもう寝るね。」

お母さん「もう寝るの!夕飯は〜?」

遥「買ってきた〜おやすみ!」


10秒ほどの会話が終わり、二階の部屋に戻る遥

スーツを脱ぎ、部屋着に着替える。

いつもなら丁寧にたたむスーツも疲れからか脱ぎっぱなしだ。


遥(少し寝てから直そう…)

遥はベットで横になり、目蓋を閉じる。

次第に力が入らなくなる…水に浮かぶ浮き輪のようにフワフワな感覚になる…



ちゅんちゅんちゅん

とろんとろん

ちゅんちゅんちゅん

とろんとろんとろん


聞いたことのある音楽が流れ始める。

5時半…遥はその言葉を待っていた。


「ろ…じ…です…くじ…すろくじです…六時です!」

六時?今日は六時に起きるんだっけ?

思考が回らない遥

鉛のように重たい体を少しだけ動かし、スマートフォンの画面を見る。



画面に浮かび上がっている数字だ。

そんなはずはない

目がおかしいのか?

現実を受け入れられない遥

目を肘と手の間で擦る

もう一度見る



遥は一瞬にして飛び起きる

遥「ヤバイ!!」


手慣れた手つきで服を着替える遥

バタン ドタドタドタ


遥「お母さん!5時半に起こしてって言ったでしょー!行ってきまーす!!」

お母さん「?なんのこと?それよりぎゅうにゅ…」

嵐のように去る遥には聞こえなかったようだ…



遥「はぁはぁ…」

全力で自転車をこぐ遥

一度きたことのある道だ、昨日よりは早く着ける…



駐輪場に着く

昨日と同じ場所に自転車を止める

鍵は…


遥(あれ?)


鍵はかけなきゃいけない

盗まれるから

昨日盗まれたから

今日はかけなきゃいけない

でもなんで?


混乱する遥

でも急がなければ

鍵はかけておこう

昨日の教訓


タッタッタッタッタッタッ


昨日と同じ道を走り抜ける遥

昨日と同じように扉が開く


遥「あ、おはようございます!」

昨日と同じ、お姉さんが立っている。

昨日の失敗を繰り返さないように、焦りながらも今日は挨拶ができた。


お姉さん「おはようございます。」

丁寧なお辞儀をするお姉さん

お姉さん「受験生の方ですね。どうぞ、左手の扉よりお入りください。」


昨日と同じように誘導される。


遥「あ、あの!」

遥は伝えなければならなかった。


遥「ほ、本日、面接でお伺いしました時風遥です。神矢様はいらっしゃいますでしょうか?」

言えた!

正しい言葉遣いである自身は無いが言えたのだ。

少しホッとした遥とは裏腹に落ち着いていたお姉さんが動揺する。

遥でもわかる。

動揺しているのだ。


お姉さん「え、えっと…」


動揺するお姉さん

遥は自分の言葉が社会には通じなかったのか。

間違えた日本語だったのか。

不安になる。


お姉さん「か、神矢ですね!少々お待ちください。」


ポケットから携帯を取り出す。

誰かに電話をかけるようだ。


カチャ


お姉さん「あの…は…いらしゃ……わかりました。」


完全には聞き取れないが何となくわかる。

遥は緊張しながら…電話が終わるのを待った。


パタン


お姉さん「えっと…面接でしたよね!どうぞついてきてください!」

電話を終えたお姉さんは遥を誘導する。



カタンカタンカタン

カタンカタンカタン

薄暗い廊下にハイヒールの音が2つこだまする。


お姉さん「それではどうぞ。こちらにかけてお待ち下さい。」


遥「はいありがとうございます!」


大きな扉の前に、椅子がポツンと寂しそうにしていた。


お姉さんは落ち着きを取り戻している。

ここに来るまで、遥とたわいもない話をしていたからだろうか

趣味の話、仕事の話、ペットの話…


大きなエレベーターに乗り、階段を登り、扉をくぐり抜けてきたのだ。

五分くらいかかったのであろうか、さすがは警察。

セキュリティは万全なのだと遥は感心していた。


コンコン

お姉さんがドアをたたく。


お姉さん「愛羅です。お連れいたしましたよ!」


静かな廊下にノックの音と、お姉さん…愛羅という名前なのだろう。綺麗な声が響く。


?「入ってくれ、二人でな」

声が返ってきた。少し重たいような低い声だ。


愛羅「はい。」


返事をするお姉さん


愛羅「それでは入りましょうか遥さん!」

遥「は、はい!」

遥(もう入るの!?面接初めてなのに!!!)


突然のことに動揺しながらも緊張する遥

そんな遥をよそに愛羅が扉を開けた。


ギィィィ


重たい扉が開く。明るい部屋…ではなく広く薄暗い部屋が広がっていた。

お姉さん…愛羅さんは扉を抑えて遥が中に入るのを待っている。


?「どうした、はいらないのか?」

動揺し、動けなかった遥が導かれる。

遥「し、失礼します!」


言葉に誘われ中に入る遥

一歩、二歩、三歩…

その時だった。


4歩目の足が動かなくなる。

目の前に見えた人間は遥を見ていたのだ。

冷たく…蛇のように睨みつけられる…

それだけなら遥も動けただろう


冷たい目をした人間・・・男は

銃を構えていたのだ…

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