第22話 魔術師は、条件を突きつけられる

「でも、条件があるっす」


 ウィルの提案にあっさり同意したマリエラだったが、直後にそう付け加えてきた。

 無条件でイエスと言われるとは思っていなかったウィルは、むしろ想定していた会話のレールに路線が戻ってきたことに気をよくした。


「条件、か。……まあ、聞こうか」

「条件は単純っす。その迷宮探索の後で……アタシを、勇者パーティーに加えて欲しいっす」

「——いいのか?」


 ウィルが確認したのは、そんな簡単な条件で大丈夫か、と聞くためではない。

 マリエラの本分——彼女が妹とは異なって、勇者パーティーに加われなかったのには、特別な理由があるからだった。


「大丈夫っす。こないだ、やっと長老会議の結論が出たんすよ。封印が修復された今、<龍>の件は放置してもしばらく危険はないだろう、って。いやー、お偉方の頭は固いんで、ようやくっす」

「なるほど、そういうことか」

「まあこれでも早く決まった方っす。エルフの時間感覚だと数年議論しても別に問題ないっすから」

「はは……まあ、苦労して封印を修復した甲斐があったというものだ」


 ここにあるエルフの隠れ里は、意味も無く世界から身を隠しているわけではない。

 古来、<龍>と名付けられている、大きな災いをもたらす存在を秘密裏に封じることで、世界を守っているのだ。

 封印は古代魔法王国の魔導技術と、長命種であるエルフの叡智を融合させて作られたもので、その歴史は今より千年以上の昔にさかのぼる。


「でも、ウィルの旦那がいてくれて本当によかったっす。古代魔法王国が滅びてしまって、封印のメンテナンスができなくなってましたっすからね」

「ああ……繰り返すようだが、例のことは他の面子には秘密にしておいてくれ」


 ウィルは念押しした。

 ウィルが、古代魔法王国の時代に生まれ、現代に至るまで封印されていた魔術師であることは、リオ達には話さず、マリエラとエルフの古老たちの間だけの秘密にする。

 それが、ウィルが封印の修復に協力するときに出した条件だ。

 古代魔法王国の<龍>を封じる結界を修復する能力があることを説明するために、マリエラ達にだけは秘密を明かさざるを得なかったのだ。

 そのときの約束は、マリエラも肝に銘じていたようだった。

 彼女は、わかってるっす、と真摯な瞳と共に頷いた。


「まー、そういうことなんで。今度は<龍>よりも魔王……大魔王っすか? のほうが脅威だって話になってるっす。それに、ウィルの旦那に恩を返すべきってのは里の連中はみんな言ってるっすからね。アタシがウィルの旦那の手伝いをするのは、歓迎されると思うっすよー」

「む。それならありがたい」

「でも、迷宮探索っすかー……それも駆け出しの魔術師と一緒に……なんか迂遠っすねー」


 ところが、迷宮探索の話になると、一転して、マリエラはどこか納得いかなさげな顔になった。

 鼻の頭を、曲げた人差し指の第二関節の辺りで軽くこすりつつ、彼女は続ける。


「いっそのこと、アタシと一緒に先回りして別の魔王を倒しにいきません? そっちのほうが良い練習になると思うっすよ?」


 乱暴な提案だが、その案はウィルの心を捕らえた。

 確かに、リッタやミラ、それにジギーと一緒に迷宮探索を続けるよりは、魔王と戦うほうが強敵に相まみえることが予測される。

 古代魔法王国期の強化外骨格に身を包むマリエラは、前衛として優れた能力を持っている。そこに、古代魔法王国の最終兵器として製造されたウィルの魔術があれば、二人でも魔王討伐は可能、というところか。

 このマリエラの想定には、甘いところがあるのをウィルは知っているが。それでも。

 手加減の修行として考えるなら、有力な計画ではないだろうか……。

 こちらもまだ修行を始めたばかりとはいえ、リオたちも着々と冒険を進めているのだから。


「いえいえー……待ってください、マリエラさん。ウィルさんが魔術学院に入学するのは、精霊神様のお導きによるもの。そして、精霊神様は数多の神々の代表として、この手段をウィルさんに提示しているのです。ということはー……」

「うーん……つまり、こういうことっすね。この方法が一番上手く行く……他の方法だと失敗する可能性もある、っていう」

「ですですー……」


 シルフィに口を挟まれたマリエラは、しばし考えてから、ふむふむと頷いている。

 エルフであることを差し引いても、歳に似合わず子供っぽい体格のマリエラ。

 そんな彼女が、板間に引いた敷布の上にどっかりとあぐらをかいて座っていて、擦った関係で鼻の頭をほんのり赤く染めつつ、重々しげに頷いている様子には、どことなくおかしみがある。


「しかし、あの神様のやることだからな……ただの思いつきの計画だった可能性もあるのではないか?」

「いえ、それは流石にー……ないんじゃ、ないかとー……?」

「自信無さそうっすね、シルフィの姉御」

「あはは、は……って、姉御だなんて。私ってそういうイメージですー……?」

「あー、いや、これはアタシの癖みたいなもんっすから、あんまりお気になさらず」


 話が本題から逸れてきたところだったが、そこでウィルはふと気がついた。

 

「まあ、手加減の修行については後で話す機会はあるだろう。いずれにしても、仲間を待たせているから街に一度は戻らないといけないからな」


 先にこれまでの話をまとめて、気がついたことを切り出した。


「それより、マリエラ。お前のその呼びかけ方なんだが……。さっき話した、俺の見た目を誤魔化すための神具と相性が悪いから、変更してもらう必要があるかもな」

「お、そういや見た目が変わるんでしたっすよね。どんなふうになるか、見せてみて欲しいっす」


 ウィルが言うと、マリエラは予想以上に興味を惹かれたようで、勢いよく食いついてきた。


「と言いますかー……、色々と口裏を合わせておかないと、リッタさんにはますます疑われるようになるかとー……」

「む、それもそうだな……」


 シルフィの指摘を受けて、昼が近づくまでの時間をかけて、ウィルはマリエラと口裏合わせをするのだった。

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