霧色真珠の導き

 はたして濃霧の予報は的中し、小舟は視界のきかぬ中、すべるように岸を離れた。入り組んだ水路を抜けると潮の香に包まれる。孤児の娘が纏う黒い婚礼衣装はあたりの色に溶けこめないまま沖でおぼろに漂っていた。


 おそれは無かった。物心がつく頃には既に共に在った歪な真珠を、彼女にとっての全ての美のいしずえである、霧の色をしたそれを信じていた。それが見せるまぼろし――光が届かぬ水底で、雪のように降る懸濁物を越して此方を見つめる静かなまなざしのことも。


 いにしえからの伝承通り、鎧のような鱗を持つ腕が靄のヴェールをかき分け現れる。鱗は黒く禍々しいが娘の真珠と揃いの光彩を放っている。その指先は目印の首飾りの主にとてもやさしく触れた。






(#Twitter300字ss企画 第48回 お題「霧」/ 文字数:300字)

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