おとめの死

 寂しい海辺で裸足の足跡を熱心に水際に並べたあの時の私達はやっと十代の半ばに届く齢。親に逆らう言葉も家に抗う術も持たず、互いに見つけたちいさな貝殻をせめて結納の品のように交換した。私からの巻貝をあなたは耳にあて、望まぬ輿入れを嘆く海の姫君の泣き声が聞こえると言い、一片の桜貝を私に返し、これは今この時の私たち――おとめの真心の化身なのだと表した。


 私達は結局それぞれ故郷を離れて嫁入りし、知らぬ存在に変容していく互いを惧れてかどちらともなく疎遠になった。転居を重ねた私の桜貝は罅入り砕けて只の亡骸と成り果てた。老いた私は今、遠い日によく似た水際で膝から下を濡らしている。死んだ少女の弔いを遂に叶える為に。






(#Twitter300字ss企画 第44回 お題「約束」/ 文字数:300字)

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