花嫁の鈍色金剛石

 故郷の思い出を尋ねると君はいつでも風景のことから語り始めたものだった。


 薄曇りの毎日、低く垂れ込める灰白色の雲、それらを押し運ぶ風にせわしなくそよぐ荒野の枯れ草。


 どれも好きではなかったけれど今では懐かしいものばかりね。ひとつとして此処では見られやしないのだもの。


 君は必ず淋しげに、そう話を結ぶものだから、ぼくはいちどだけ激情にまかせて陸に押し寄せ町を浚って、手に入れた貴石を君に捧げたことがある。うすらかな灰色の石は煙った白を内包していて、君の記憶の空に一致した。


 海神わだつみの花嫁は今宵も深海で眠っている。色素の抜けた生白い膚を鈍色の金剛石で彩って。虹銀の鱗を光らす鮫にまもられながら、死せる珊瑚に鎖されて。






(#Twitter300字ss企画 第43回 お題「空」/ 文字数:300字)

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