300字掌編集

望灯子

オパールの誘惑

 つるりと円く磨かれた表面は瑞々しい乳白色をしていた。よくよく見つめてようやっと気づけるほどの朝靄めいた濃淡を、鈍金にびがねの歪な枠がくるんでいる。

 カーニバルの晩、街中に満ちる喧噪からわずかだけ逃れた裏通りで、露天商の男が私の指にそれを嵌めた。花火の音が轟くと、舞い散る火の粉のひかりを受けて、石は妖しいきらめきを放つ。空の虹より雄弁な色色が、波のように滲んで浮かぶ。


 気に入った?


 訊ねる男に頷くと、私の動作に合わせて色はゆらぐ。いまにもその底にとぽりと沈んでゆけそうだ。


 これは曰く付きの代物。一緒に泳いでみたくはないか、この光彩の散る霧の海を。


 君だけに呪文を教えよう。笑う男の黒い瞳にも、同じ遊色が浮かんでいた。






(#Twitter300字ss企画 第42回 お題「遊ぶ」/ 文字数:300字)

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