記録盤 No.008

【チャプター・045/049 〈サキシフラガ〉超過オーヴァ


 そして(〈三姉妹〉も含まれる、)皆が意識を注ぐ中で──


 〈行使者プレイヤ〉〈ブラン(ドン)・ベルゲン〉の内なる分身=〈サキシフラガ〉は疾走する──新たに始められた『十三周目』も、構造自体に大差は無い。

 前回途中からの〈第一層〉は、騙られし人の為の都であり、(多少の古さ/前〈唯都シティ〉時代的なものを想起させつつの)煉瓦と金属の構造群ビルディングが拡がっている。神の新たなる創造行為は、神話と歴史(の設定)を辿る様に、下が古い年代の様式で、/上が新しい年代の様式と、積み重なってはいるけれど、“騙られし”の掛かる言葉が、『人』と『都』と、その両方とで在る様に、生ける市民は誰も居らず、人の様で人では無い、/影の如き輪郭のみの〈落とし子クリーチャ〉達が、見覚えの在りつつも気の所為に他ならない街並の中、〈群敵エネミィ〉として湧出される。

 〈登場人物キャラクタ〉側から見た際の、其れ等の強さは話に成らず、本来だったら、〈案内説明チュートリアル階層〉の続きとして、遊戯ゲェムに慣れ親しんで貰う為の、/操作の練習を行う為の、そんな雑魚では在ったのだが、今では数の有利も伴って、無視して逃げる方が効率の良い──それこそ火に引き寄せられる〈虫〉とでも言うのか、何十/何百体の、(この周回だと下手をしたら、千体規模に迫るのではという程の、)夥しい人擬ヒトモドキが、群れを成して迫り来るのを、迷路と呼ぶには些か解り切った(これは一周目からそうである)狭い街路を走り、走り、走り抜ければ、(倒さない限りに)何処にも行けない/通じていない、市街地の広場に地響きが鳴り渡り、合わせて最初の〈首魁ボス〉こと〈瓦礫の巨像〉が、石畳を砕いて地より沸く──頃には既に、〈死滅の短剣〉×二本を抜き放ち、攻撃動作へと移っている。一撃、二撃、三撃、四撃目にて身を翻し、振り下ろされる巨大な拳を避けながら、無防備な後方へと回り込む──少女像埋め込まれた背中を睨み付けつつ、脚部の、主に片方だけを集中して狙っていれば、今度は拳では無く踵が降ろされ、踏み付け攻撃ストンピングが誘発されるも、分かっていれば避けるのも容易く、次はもう一方の片足へ、そこから円を描く様に、ぐるぐるぐるぐる、斬り付けて巡る──【生命力ライフ目盛バァも、そして恐らくは【損傷点ダメージ】も、既にして最初の〈首魁ボス〉のそれでは無い程に周回補正がされているが、当たらなければ死ぬ事は無く、『何度も何度も攻撃している内に、片膝を付いて倒れ込む』、そんな弱点もそのままであれば、仕損じない限り問題も無い──目盛バァの朱い横線は、確実に/着実に失われて行き、それが何も無くなった瞬間、〈巨像〉は前のめりに倒れ込んで(演出の一環であるならば、これに巻き込まれる心配は無い)、豪快に地面と衝突すれば、旧き市街地が一角の、捨てられた瓦礫の塊と化しており──


 その〈亡骸〉へと祈りを捧げると、顕れた道より〈ホール〉を見出して──


 〈行使者プレイヤ〉〈ブラン(ドン)・ベルゲン〉の内なる分身=〈サキシフラガ〉は疾走する──次なる〈第二層〉は田園風景/灰褐色なる侘し気な農耕地であり、遥か彼方の地平線には、先の都市らしき城壁の陰影が伺えるけれど、其処への道程は存在せず、到達不能と設定されている。枯れた草木と廃屋の群れ、廻らない風車の合間合間に、人が〈犬〉へと退化したのか、/〈犬〉が人へと進化したのか、どちらであろうと中間的なる、奇怪な〈落とし子クリーチャ〉達が徘徊している。〈第一層〉の人擬ヒトモドキと比べると、数は少ないが強さが段違いで、その上目敏く付け狙って来る。『逃げるのも決して悪くは無いが、時には堂々と一対一にて、対処しながらに進まねばならない』、そんな此の遊戯ゲェムに於ける理念の一つを、獣人(人獣)達は教えてくれるのだ──そして一番大事な箇所は、“一対一”の部分であり、上手く物陰へと誘い込む、/周囲に仲間が居ない時を狙う等と、(攻略的には間違い無く意図的な)隙を上手く付く様にして、丁寧に、丹念に『駆除』して行く──さも無ければ、数体(人)掛かりで群がられ、汚れた顎の贄とされる、と、言うか、一度ならず成ってしまい、無様な〈死亡デッド〉判定を受けてしまったが、道中に在る〈記憶の石碑〉から再始動するだけの為、一応問題は無いと言えよう。普段は気にする『瞳』/【の数字】の変動も、今回に限ってはどうでも良く、もとい、/寧ろ、下がる所か上がり続けている様に見える。〈啓示板〉でも煽ったのだろうか、方法はともあれ、その上昇具合は凄まじく、こんな〈第二層〉の途中なんかで見られる人数では断じて無い──〈行使者プレイヤ〉として気合を入れ直しつつ、何度めの突破を試みよう。反応する範囲も、/速度も明らかに向上している、きっと農夫の成れの果てを、/この創造が失敗だったと言わんばかりの、哀れなる〈落とし子クリーチャ〉共を誘き寄せ、一体一体倒して行けば──郊外の郊外に位置する、木の柵で覆われた牧場地へと辿り着く。その中心部には蹲る影、/退化なり進化なりを推し進めた造詣デザインの、〈嘆きの人面獣〉が伏しており、理解不能なる言語に拠って、二つ名通りの行為に耽っている──が、側へと近付く〈サキシフラガ〉を一度認めた其の瞬間、【生命力ライフ目盛バァと〈名称〉が突如として顕れ、咆哮と共に突撃が放たれる。ひらりと前転移動ローリングで避けて遣れば、(破壊不能設定なる)柵へとぶつかり、ブルンブルンと頭を奮って、再びの咆哮と方向転換、再びの突撃を繰り出して来る──その相貌は老婆のそれであり、〈自殺志願者・支援/防止管理事務所〉のお世話にもなる事無く、寿命の限界まで意地汚く生き続けた様な顔面の迫力には、少々気圧される事も在るには在ったが、流石に最早見慣れてしまい──何も想う所等無く、法則性パターンに従い淡々と、攻撃と回避とを只管に繰り返そう──(今では連想するのも痴がましい/、〈愛玩物コンパニオン〉が偶にして来る様な、)〈行使者プレイヤ〉達からは“じゃれ突き”と称される、一方的な攻撃の連続、その起点の一撃こそ素早く、/不意で、/恐怖ではあったが、〈巨像〉と同じく、其処さえ避けられれば『駆除』も容易い──馬鹿の一つ覚えめいて繰り出された突撃を避けつつ、青褪めた斬撃が〈致命の一撃クリティカル〉を放てば、〈人面獣〉は其の場へとへたり込み、二つ名通りの何かを呟くと、そのまま息絶え、動かなくなる(“彼女”の言葉は掠れていて、普段は聞き取れなんてしないのだが、現在の鋭敏な感覚の元だと、こんな風に聞こえた気がした。『母よ、彼等をどうかお赦し下さい。彼等は何をしているのか、己自身で分からないのです』と)──


 その〈亡骸〉へと祈りを捧げると、顕れた道より〈ホール〉を見出して──


 〈行使者プレイヤ〉〈ブラン(ドン)・ベルゲン〉の内なる分身=〈サキシフラガ〉は疾走する──次なる〈第三層〉は、鬱蒼と生い茂る樹木の群生地──所謂いわゆる一つの『森』であり、〈唯都シティアリス〉には、/いや、何処の〈唯都シティ〉にも最早到底有り得ない様な、昏き緑の続く光景に関しては、見る者に拠って全く別の意見が付随する。此処が一番美しい、/癒やされる場所だと言う声も在れば、不安に駆られて仕方が無い、/最も悍ましい場所であると、言って憚れない声も在る──彼氏の印象は両方であり、全く別のものでも在った。木漏れ日差し込む、黄昏セピア色で無い景観には、確かに美的と想えたけれど、其処には〈猫〉とは比べくも無い、/“かつて”も存在して居なかった筈の、異形の〈獣〉や〈鳥〉が跋扈し、侵入者に対して、容赦無くと襲い掛かる──〈第一層〉及び〈第二層〉さえも、未だ〈案内説明チュートリアル階層〉の延長で在ったとするならば、この〈第三層〉からこそが、本当の〈ペイル・ピット〉と言える仕様であり、此処までに至る為の手管の確認が、『道程』と〈群敵エネミィ〉に拠って推し量られ、一定水準に達していなければ、そもそも〈首魁ボス〉にさえも到達出来ない──最初の脚切り地点であり、多くの〈行使者プレイヤ〉が挫折するのが〈第三層〉で、だから良い思い出なんて無い訳だけれど──技量等という観点に従えば、そんな級位レベルなんて当に到達してしまっており、だから先の賛否を言い直すと、彼氏に取っては賛寄りである──迷路の如くと入り組んだ枝葉も、行き成り降って湧く〈落とし子クリーチャ〉達も、今と成っては容易い事、/容易い者だ──勿論、なんて言って居られる状況は、〈首魁ボス〉待機場までであり──林を超えた先の、ちょっとした広場の中央にて、/掌中に握られたる首飾りに向かい、傅き、そして祈りを捧げている人影を見出すならば、〈行使者プレイヤ〉の表情も俄に険しく、緊張した面持ちで操縦桿を握る──『森』が最初であるならば、二番目の脚切りが〈首魁ボス〉/〈放浪の従者グレイマン〉だ。

 後の〈第七層〉に顕れる〈女王〉に仕えていたとされる彼氏は、何らかの不敬を買ってしまったのか、止むに止まれぬ事情の元、祖国を追われて幾星霜、/永きに渡る旅路の末に、最早正気も磨り減って、只、目の前に佇む『敵』へと挑み掛かる、怪物同然の存在へと成り果てた──そんな(遊戯ゲェム上に於ける)伝承の再現であり、造物主の(二重に)不快な諧謔の化身な訳だが、その実力と言ったら、全く以って笑えない代物だ。灰色の三角帽に隠された相貌/影にて輝く青白い凶眼/灰色の外套を羽織った長身と、外観自体は完全に人型であり、〈登場人物キャラクタ〉の体格と同程度(〈サキシフラガ〉と比べるならば、頭三つは高かったが)の為、初見の印象は生易しい──が、いざ名称と【生命力ライフ目盛バァが出現し、その得物である杭の様な手槍(〈グレイマンの手槍〉)を構えて相対して見れば、〈巨像〉や〈人面獣〉等、比較に成らない難敵である事が分かるだろう──一発の【損傷点ダメージ】自体は高が知れているけれど、連続と成ったら話も違う(周回補正無しなのは無論の事だ)。しかも、これまでの〈首魁ボス〉と決定的に違う点は、向こうも回避をして来る事である。その分、【生命力ライフ】自体は低めであり、『十三周目』だろうと“そこまで”変わる事は無いのだが、だからどうしたと言う話でもあって──此奴との戦いに於ける重要箇所は、〈回復薬〉の使用機会と、巧みな“視界”操作に他ならない。相手が攻撃して来る瞬間と、その攻撃を掻い潜った瞬間こそが、行為を起こす最も相応しい時であり──回避して回復か? 回避して攻撃か、何れにせよ、素早く/良く伸びる一突き、一突きを全て見切って、間に選択を下さねばならない。〈行使者プレイヤ〉自身の【集中力フォーカス】こそが試される為、断念も止む無しと言う所だ──が、その試練を、彼氏は何度も受けており、その都度突破して見せている──ほんの僅かな横移動にて、最初の突きを避けた後、続く二つ目も同様に回避し、そこから大振りに繰り出される払いを、前転移動ローリングで抜けて直ぐに、素早く“視点”を変更すれば、回転攻撃の勢いを利用しての、跳躍からの四発目が、時既に放たれようとしている所で──派手に見える此の攻撃はしかし、一歩前に出れば当たらない(後ろへ下がると寧ろ当たる)事を、彼氏は既に知っている。指を弾き、最小の操作にて動かしてやれば、〈サキシフラガ〉の手番ターンは、充分余裕の在るものであり──お返しとばかりに双剣をお見舞いする、一発、二発、三発、辺りで早々と斬り上げるなら、次は〈グレイマン〉の手番ターンへと移る──以降その様な繰り返しの中で、目盛バァは互いに徐々に磨り減って──最後の一撃は突きを無視した、/喰らうと分かって居てのものであり、実際直撃を受けてしまったが、同時に刃は届いており──一方的な相打ちの元に、〈従者〉はがくりと両膝を付き、手槍を支えに立とうとするも、無駄な努力と倒れ伏し──そして〈サキシフラガ〉の所持道具欄には、〈女王のロケット〉が追加されて、これが“彼氏”の来歴と、末路を示す媒体となる──(ついでに後の〈第七層〉では、此れが必需品として扱われ、故に棄却は不可能であるが、周回毎に獲得するなら、所持数は今や十二個だ。内の一つは、〈グレイマンの手槍〉作成に使用してしまった。結局使っては居ないけれど)──とは言えしかし、〈首魁ボス〉は〈首魁ボス〉、代役ボットであり、本人その者では無い訳だが──


 その〈亡骸〉へと祈りを捧げると、顕れた道より〈ホール〉を見出して──


 〈行使者プレイヤ〉〈ブラン(ドン)・ベルゲン〉の内なる分身=〈サキシフラガ〉は疾走する──(祈りを捧げた時点にて、【生命力ライフ】は回復し、上限値まで満たされている。元気一杯と言う事だ)──終わらない宵闇の昏き墓所地と、次なる〈第四層〉には、おどろおどろしい雰囲気が立ち込めており、『森』以上に毛嫌いする者の多い景色が〈階層〉一杯拡がっている訳だけれど、経験者から言わせれば、此の地は最も慣れ親しんだ、狩場と呼ぶべき場所である。無限に湧き出る死霊達は、此方の通常攻撃が通用せず、/一方的に攻撃される為、対処方法が無い場合は、遮二無二逃げ回される忌まわしい存在だが、逆に言うと、対処方法が在る場合は、一気に攻略が簡単と成る。【生命力ライフ】自体はかなり低く、攻撃が通るのならば周回も重ねても弱敵である──〈サキシフラガ〉に関して言うと、〈死滅の短剣〉×二本には、『聖別』設定が施されており、死霊(設定)で在ろうとも、通常通りの【損傷点ダメージ】を与える事が可能である。そして此の〈群敵エネミィ〉からの〈録取品ドロップ〉である〈命の素〉を消費すれば、〈回復薬〉が生成出来る。そして〈落とし子クリーチャ〉は尽きる事無く、倒しても倒しても顕れ出て来る(通常ならば限度があり、算譜術式プログラムの切換が起きなければ、/一度〈死亡デッド〉したりしなければ、/遊戯ゲェムを中断したりしなければ、何時かは枯れ果て尽きてしまう)──(資源枯渇が問題視されているならば尚の事、)大変有為なる獲物であるが、残念な事に、と言うべきか、現在の所、狩猟・採取している時間的余裕も無ければ、〈回復薬〉の所持的余裕も“有る”以上、無視して進むのが適切であり、進めない相手のみを斬り捨てるのが『効率』という奴だろう──だから、では無い筈だけれど、此処の〈首魁ボス〉は厄介であり、一対一では断じて無い。道中の死霊達がそのままに、“彼女”を守る様にと徘徊している──〈鳥〉の頭部にすげ替えられた、黒衣身に纏いし〈鴉の屍婦人〉それ自体は、特に何もして来ない。この〈階層〉唯一の光源にして天体である、月を掲げた丘の上で、彷徨える魂を導く様にと、行ったり来たりを繰り返している──時折思い出した様に、自身へと攻撃を加えている存在に対して、逆手に握った〈死滅の短剣〉(この武器は元々“彼女”の物だ)を振り翳し、運が悪ければ一撃で〈死亡デッド〉させて来るけれど、そもそも挙動が鈍い為に、滅多な事では当たらない。警戒するべきは死霊達で、適度に無視して、/適度に打ち倒す、その配分が難しい──と、言うのは、〈首魁ボス〉の【生命力ライフ目盛バァが、丁度半分を切るまでの話──瞬間、羽根の如く黒衣翻した〈屍婦人〉は、右へ、/左へ、/はたまた背後へ、瞬間的なる移動を繰り返しつつ、二本に増えたる〈短剣〉を振るって、恐るべき其の力を存分に発揮する。法則性パターンの変更は、どの〈首魁ボス〉にも大概在るけれど、此処まで変わるのは“彼女”だけであり、この対応には苦労させられる。その上、死霊達も湧出し続け、更には寄り一層と活性化すれば──予想はしていた、が、それ以上の時間と繰返とを、〈サキシフラガ〉はする事となる。殊、此処に至るまでの間、(態々示す必要も無い程の頻度で、)結構な〈死亡デッド〉を迎えていたりはするけれど、多くは難所と言う奴で、想定内の出来事であった──想い返すに、どうも此の〈屍婦人〉とは、相性が余り宜しくない。〈グレイマン〉は強敵だったが、それは遊戯ゲェム的なものだ。“彼女”の場合は、もっともっと、直感的な、/根本的な、/それこそ霊的な級位レベルで苦手意識が感じられる──(この時の彼氏が連想したのは、何故か自室の清掃機械スウィーパァであり、そう言えばずっと掛け忘れていると、この後に及んで思い出していた)──だがしかし、そう、それで諦める様な〈行使者プレイヤ〉ならば、最初から此処まで来ていないし、こんな事なんて繰り返していない──再び〈死亡デッド〉し、直前の〈記憶の石碑〉からの遣り直しであるが、構わない構わない、/一向に構わない。『〈ペイル・ピット〉に底は無い。貴方が決して諦めない限り──』と、実際の創造主達も告げていよう。ならば遣る──狩りの対象としてでは無い無数の死霊達を潜り抜けながら、彼の〈屍婦人〉と相対し──拡がる翼の如き黒衣を、緑と青と、/二対の眼で睨み付ければ、〈死滅の短剣〉×二本の斬撃も同時に──今回は〈忌死の指輪〉も在ると、刃の舞に没頭する──


 その〈亡骸〉へと祈りを捧げると、顕れた道より〈ホール〉を見出して──


 〈行使者プレイヤ〉〈ブラン(ドン)・ベルゲン〉の内なる分身=〈サキシフラガ〉は疾走する──(“彼女”の左手の薬指には、月光に煌めく指輪が嵌められ、変わらぬ輝きを放っている)──次なる〈第五層〉は、果て無く続く水面と曇天で、陸地というものが存在しない(〈記憶の石碑〉すら二つだけで、最初と最後の〈亡骸〉である)。靴底程度の深さしか無い、浅瀬が延々何処までも、だが、良く良く見ると、海の色彩に濃淡が在って、そこが“深み”と告げている──その見極めは実際微妙であり、誤って脚を踏み入れた挙げ句、浮力無き海水(設定)に囚われて、そのまま〈死亡デッド〉が頻繁に起こり得る──此処はそんな、地形の方が厄介な場所であり、更には〈群敵エネミィ〉さえも一切出ない。顕れるのは〈首魁ボス〉だけで、しかも道半ばから出現する──〈魚の影〉としか言い様の無い其れは、奇妙な声音で唄いながら──(これが〈深層〉に居る“彼女”の台詞の逆再生だとは、彼氏でさえも気付いていない)──敵を追い掛け、/追い縋り、“深み”の方へと押し遣ってしまう。しかも、この段階で【損傷点ダメージ】を与える事は不可能で、最奥に在る一種の島(“深み”が周囲を取り囲んでいる、円形状の脚場)まで、到達する事が条件だ──少々特殊な〈階層〉の訳だが、それもその筈、此処が〈ペイル・ピット〉の丁度中間に位置しており、見事に突破出来たならば、後半戦の開始となる──その〈第六層〉からは、攻略難易度がまた跳ね上がり、攻略させる気が無いのかとも想うが(実際大半の心が折れる)、〈階層〉毎の設計意図を思うと、新しい観念は以降には無く、(高度な事は間違い無いが)応用でどうにか出来てしまえる──『現実』に於いて、どれ程の時間が経過したのか、拡張された心身では推察する事すら出来ない(高揚する気分が空腹を偽り、排泄はの方は管付き尿瓶が役立っている)けれど──『十三周目』にも終わりが見えたと、そう想えるだけで、/感じられるだけで、大分気持ちも変わるものだ。

 目指す“底”までの道程ならば、何度も降って知っていよう──ならば後は遣るだけだと、操作桿コントローラを握り締める。近付く〈影〉を見詰めながらと、指でぐっと押し込めば、〈サキシフラガ〉は疾走する──水面の弾ける音が続いて──

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