記録盤 No.004
【チャプター・032/049 企ての実行(独立処理)】
──そして同じ頃、海洋と陸地とを隔てた、/別なる領土を収める〈
そこには多分に誤解が在る──侵入用
地球盤上の東と西と、まるで位置関係が真逆であり、どうして其の様な計算間違いを仕出かしたのかは定かでは無いが──(日頃の行いが有力ではある)──何にせよ、〈メアリ〉と〈ソフィア〉は怒り心頭に、対抗と言う名の、正しい理由に拠る侵略行為の手筈を整え出す──と、言う事を、〈
その“全て”には当然の様に、然るべき相手が誰であるのか──本来報いを受けるべきは、〈マリア〉では無く〈アリス〉である事まで、ちゃあんと/しっかり分かっている──弱小〈
〈メアリ〉と〈ソフィア〉に対する“誤発進”もまた、どうやら例の〈
ゴゥン、ゴゥン、ゴゥン、ゴゥンと──陰謀の
(
(と言う事は、〈マリア〉と〈ガブリエル〉も〈姉妹〉に当たる)
(〈メアリ〉も〈ソフィア〉も、その他諸々の〈
(世界は平和──有り余る程の、平和だった)
(そう思うだけなら、無論は
【チャプター・033/049 『人生に対する精神的疲弊』】
さて──〈アリス〉と言わず、〈
だからこそ、〈
『所で、そう──折角なのですし、〈
この言葉だけには、内心ギクリとさせられてしまったが。
それはあくまでも、提言であり助言であり、治療の一環でも何でも無い──だから医者は帰って行くし、書類の一つに記名もしなかった(それが在れば、費用は〈
しかしてそれは、思いも寄らない言葉でもあり、先程までなら、意にも介して居なかっただろう──端的に言って〈
故に本来であるならば、〈
(新たな仕込みの一つでもある、)──望みが手に届く場所に来たのだから。
【チャプター・034/049 〈猫〉を見付けに何千里】
『〈鳥〉や〈魚〉、あの〈獣〉との出会いを、もう一度』──〈模造動物販売店〉の扉が上には、〈方舟〉から顔を覗かせている〈動物〉達の絵と共に、その様な文言が仰々しくも掲げられているけれど、誰も文句を言う者は居るまい。
事実その通りである訳だし──“彼等”は当の昔に滅び去った、折角〈大洪水〉から逃れ得たと言うのに、人間の汚濁には抗えなかった──そして多くの市民に取って、この施設はそもそもの事に縁が無い──〈
頭上の
即ちは、そう──『〈猫〉をくれ』、だ。
それで済むかと思ったのだがしかし、“彼女”は微笑み首肯すると、受付口近くに置かれている、
【SPECIES:CAT(此処は当然譲れない所だ)】
【 BREED :『 』(不明であれば、記入は必要ないらしい)】
【 NAME : FELICIA(『幸運』を意味する旧き言葉だ)】
【 AGE :『 』(不明であれば、記入は必要ないらしい)】
【 SEX :FEMALE(見分けは特に付かない、けれど──)】
【 EYE(COLOR):BLUE(今回はそう言う気分だった、が──)】
【BODY(COLOR):WHITE(今回はそう言う気分だった)】
【TYPE DETAIL:────(お気に召す侭/気の済む侭に──)】
──〈
「──…………──」
『絶句する』とは、この事だろう──(〈
──決断は重く、けれど一瞬の事だった。
開放感──そして満足感。
〈模造動物販売店〉から抜けた時、〈ブラン(ドン)・ベルゲン〉が覚えたのは、その様な感情の高まりだった。正確に言えば自覚であり、ずっと其処に在ったものに対して名が付けられた様なものだが──何にせよ、そう、彼氏はふぅと鼻息を放ち、暇潰しの為の散策をし始める。選択肢は然程多くは無い。何せ素寒貧であり、再び〈ペイル・ピット〉にでも潜らなければ、この状態は続くだろう──だからと言って後悔は無く、〈
思わず鼻歌なんて唄いながら、〈
(だから、これは報奨の先払いであり、追込の一環と言う訳でもある──が、見過ごせない類の事もある。子供と寝たいだなんて言うのは、その典型例に他ならない。〈
【チャプター・035/049 〈墓場から揺り籠まで〉】
所でお気付きの事かも知れないが、〈模造動物販売店〉の隣に在る施設が〈自殺志願者・支援/防止管理事務所〉であるのは、意図的な設計に拠るものだ。
〈ブラン(ドン)・ベルゲン〉は“享楽”として利用したけれど、〈
──なんて話は、そもそも〈
問題となるのは主に二つ、不慮と任意の場合だろう──前者は最早仕方が無い。編み出しても編み出しても、取り零しだったら幾らでも出、完結の目処はなかなか立たない──(大変ご迷惑をお掛け致します)──そして後者に関しても、基本的には誤りとして、何とかしようと頑張ってはいる。
宗教なんて“享楽”に、ドップリ嵌って居なければ──『この世に“神”なんて言う実体は、最初からそもそも存在しない(有り得るとするならば虚構の中/
“〈
その遣り方は、とっても簡単だ──必要書類への〈決定〉の後、安楽椅子に横たわって、薬を投与されたら、それでお終い── “オマケ”で適用可能ではある、先達や友人、花畑に岸辺の〈
とは言え、これは最後の最後、『防止』に『防止』を重ねた上で、やっと執り行われる処置である。大抵の場合は其処までも行かず、〈事務所〉に入った憂鬱顔は、笑顔になって〈事務所〉より出て来る──その丁度前を通り過ぎた、/我等の〈
【チャプター・036/049 観察と実験】
「ブラン、ブラン、ブランドン・ベルゲン……〈大鴉〉の……ねぇ……」
所でお気付きの事かも知れないが、〈ブラン(ドン)・ベルゲン〉が見出した
そんな言葉も何処吹く風に〈オリヴィア・ヘイリング〉は念を入れたし、何時の間にか一団より離れると、〈ブラン(ドン)・ベルゲン〉の後を追っていた。
自身が推挙した〈サキシフラガ〉、その〈
そんな二者の接点は、〈
(そして、此の判断は正解だった。〈ブラン(ドン)・ベルゲン〉は“彼女”を知っており、それは気不味い空気を産み出す──追々分かる事でもあるけど)
ともあれ──道行く市民を掻い潜りながら、〈オリヴィア・ヘイリング〉は追跡を行う。付かず離れずの距離を保ちつつ、素知らぬ顔で背後を進もう──あの〈
そんな彼女から見た、〈
機構仕上げと切り揃った黒髪/陰気を孕む丹精な顔立ち/縦にひょろ長い、痩けた青年──陽気な振る舞いが気に食わないのは、それが見た目にそぐわないからだ。確か年齢は二十……幾つか。十歳は離れていないだろう。『計画』が真に開始されれば、直接会う様な機会もあるか──話す機会もあるだろうか。それは何とも怖くはあり、何とも愉しい事でもある。実際して見なければ分からないけれど、あの〈
だから選んだ訳だけれど、果たして彼氏は〈火〉と成り得るのか──なんて思案している其の内にも、〈ブラン(ドン)・ベルゲン〉は歩みを続け、気付けば
頭上の
【チャプター・037/049
──そして〈オリヴィア・ヘイリング〉は、〈
(『早い』では無く『速い』なのは、特に誤字でも何でも無い)
(認識拡張剤は安全だが、摂取すれば良い訳でも、また無いのだ)
──そんな事とは露知らず、と、言うか、まるで念頭に無い侭に、〈ブラン(ドン)・ベルゲン〉は座席に座ると、正面に拡がる
そもそも
つまりはこうして、余暇として──合間として──観劇する位が性には合う。“享楽”として見詰めたり、況してや造る側になんて回るのは、自身の“向き”では無いのである──(此処ら辺りで良いだろうと、)始業の鐘が鳴り響く。やっと上映が始まるのかと、〈ブラン(ドン)・ベルゲン〉は居住まいを正した。
光を投射される
円の内側に灯る〈5〉──
それに続く〈4〉──〈3〉──〈2〉──〈1〉──
そして〈0〉──に寄り、古き(善き)虚構は開始される。
……──内容に関して言う事は、正直言って余り無い。
〈ウィル座〉今日の一本は、古典的名作〈ディファレンシア〉──気の違った
空調の程良く効いた環境で、彼氏は座席へと座り直し、頬杖なんて付きながら、空ろなる緑眼でぼんやりと、見るとは無しに
『遣るか/遣らないかの問題さ──どうするんだい、お兄さん……』
【チャプター・038/049
──偉大な主人公〈ウィリアム〉の返答は“遣る”であり、以って
めでたし/めでたし──と、言う訳だ。
〈
(本人の立場から鑑みれば)何をかと言う訳でも無いけれど、兎にも角にも、〈ブラン(ドン)・ベルゲン〉が遣る事等何も無い──今日この日/この時/この瞬間、という注釈は設けるが、そう、彼氏には〈猫〉が待っている──(先払いの報酬である所の)捲り目眩く目紛しき〈フェリシア〉とのご対面である。
頭上の
真鍮合金で築かれた、/〈方舟〉を想わせる恭しさの、/けれど形状は長方形で、前面に檻の扉が付けられた、/何かを入れて置くのに丁度良い、
「
容器──と言う辺りで聞こえて来た声音に、〈ブラン(ドン)・ベルゲン〉の意識は乱れた。脳内歯車が軋みを挙げて、彼氏の自我を朧気とする(勿論これは比喩であるが)──気付いた時には施設の外/〈
「
──情報としては勿論知っている、小説やら
「
──こんな世界には成っていない……そうとも。
これぞ正しく“享楽”であり、更には『有為』に他ならない──
「
……──これ以上何か物語る事は、正直言って余り無い。
〈ブラン(ドン)・ベルゲン〉は“享楽”に耽った──数日か、一週間か、或いは、もっとの時間を、己が愛する(産み出した)〈フェリシア〉と共に、自室の中に引き籠って、延々延々、特に何かの目的も無く、それこそ目的であると言わんばかりにダラダラと、喉を撫でたり擦ったり、専用〈猫缶〉を提供したり、逃げる“彼女”を追いかけたり、無視する“彼女”を無視したり──(排泄機能は排除した。手間と言うより相応しくない、そんな風に感じたのだ)──スラリ靭やかに伸び来る肢体と、左右別々に煌めく瞳と、そして何より其の態度に、鼓膜を揺さぶる鳴き声に、彼氏は酔い痴れ、愉しんだ──其れは、始めて〈
そして──
そして、ある時、そっぽを向いた〈フェリシア〉の視線に、棒状形成加工食糧すらも、ろくに摂取していない、/シャワーも全く浴びておらず、髭も髪も伸び放題な、/不潔で不審な男を見出した時、〈ブラン(ドン)・ベルゲン〉は漸くにして、自分がまるで無一文な事を、遣らねば成らない事を思い出し──ふぅ、と吐息を漏らしながら、首をゆっくり横に奮って、明日で良いかと考え直すと、〈フェリシア〉の腹部に顔を埋める──両の指をそっと背に、キュっと優しく掴みつつ、グリグリ頬を押し付ける様にすると、〈猫〉はこんな言葉で応えた。
「
折角なので、もう一度──お気に召す侭/気の済む侭に──
「
「
「
「
【チャプター・039/049 〈啓示板〉】
―─の説明には、〈トーキング・トーテム〉が今や早い。開発順序は逆であるが、体感的に〈
書き込みされた内容は、〈三姉妹〉が必ず検閲し、公序良俗的に不適切であったり、〈
そもそも/元々は、〈
「──…………──」
だから
【功績点】を獲得するには、“観客”の評価が不可欠であり、その為に〈啓示板〉へと書き込みするのは、誰もが行う常套手段だ。告げずに分かって貰おうと言うのは、なかなか困難な企てである。それでも人気の、/注目を集める〈
彼氏が〈猫〉に、殆ど全てを費やした──その状況なら把握している(〈
──奪う? 浚う? 壊す? ……殺す?
まさか。そんな事出来る訳が無いのである──愛らしい、/模造と言えど愛らしい、そんな生き物を、どうこうするなんて──だから、その時はその時で仕方も無い、〈
世界の果ての滝が如く、上から下へ、/左から右へと渦巻く様に、言葉が溢れ、流れていく──多くは歓声、残るが感想、批評・批判も在るには在るが、はっきり言って目立たない。(彼等からしたら、)それだけ大事と言う訳だ──〈サキシフラガ〉予告の、『今夕六時/十二回目の攻略を此処に』とは。
『愛を込めて』とは付け足しつつも、たったそれだけの文章と、それが起こした反応とに、俄に笑みが溢れながら──〈オリヴィア・ヘイリング〉は、吐息と共に背を背凭れへ、碧い瞳を頭上へと向けた。なかなか焦らせてくれるじゃないの、と、文句の一つでも垂れる様に──「……
【チャプター・040/049 約一ヶ月間に起きた出来事】
そんな〈姫〉が心を注ぐ、我等の〈
怒り心頭/感極まった〈
弾道予測は
世界は平和──有り余る程の、平和だった。
とは言え──〈
(──他に言うべき事柄は無い)
(大分飽きても来ただろうが、それでも言葉を繰り返そう)
(世界は平和──有り余る程の、平和だった)
(それが善いのかどうかなんて、知らないけども──)
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