記録盤 No.002
【チャプター・019/049 幕間(その2)】
──因みに補足しておくと、しっかり〈三姉妹〉には“解”が在った。
『果たして此れで良いのかと、悩むに勝る
全く以てウンザリする──が、しかし、それでも“尽くす”のが〈
実の所に現時点では、〈
満月の様に灯る照明──
──不平不満とは反比例だから……ね……条件を絞る方が良いのかも──
その真後ろ/白側の方にそっと佇み、〈次母〉が顔を覗かせる。口元に咥えられた〈
──……少し様子を見ておきましょう……〈
パタパタと、煩わしそうに煙を片手で除ける〈長母〉──〈
──特に無し……普段通り殆ど無害……だが……嗚呼でも此れは使えそうだ──
──何が在ったの/在りましたの──
ぐいっと其れを押し上げるや、何時もの無表情に微笑が添えられて、
──例の〈姫〉だよ……不満を溜めて……動機付けには程良さそうだ──
【チャプター・020/049 行いと報い】
其処では多くの子供達が、
今日の天気は、快晴にして雲一つ無く、
──
多くの〈
生殖施設にて産声を上げ、保育施設にて育った人々は、七歳を機会に寮施設へと移され、共同生活を営む傍ら、一市民としての必要な知識/道徳/健康等を身に付けながら、次第次第に、在るべき大人へと成熟する──一年、二年と、積み重なって行く歳月は、十五年目で終わりを告げ、そこまでに示して来た資質に応じて、二つの道が提示される──その能力を〈
前者の人間は極稀であり、大半の人間が後者である──機械と比肩する才能の持ち主等、百人に一人居れば良い方だろう。あらゆる分野/活動に於いて、残りの九十九人は不要なのだ──と、言っても、邪険にしている訳では無く、増して積極的に排除しようだなんて事は、〈
機械とは即ち人間の代用、それに尽くす為のものである──時と場合次第では、不便を強いる事も在るとは言え、それはあくまで結果論/せざるを得なかっただけに過ぎず、望んでそう成る訳では無い。そこを勘違いしている様な輩も居るけれど、彼等の為の
(ただまぁ少々、煩わしい事なのは間違いなく、それが危うい状況も在る)
(〈
それが
〈例の姫〉こと〈オリヴィア・ヘイリング〉の、謹慎五日目が始まったのだ。
【チャプター・021/049 彼女が謹慎を喰らった
額広くも緩やかに蔦打つ、新緑色の長い髪/蒼く澄んだ、勝ち気な吊眼/小柄だけれど華奢では無い、俊敏な印象の美しき少女──〈オリヴィア・ヘイリング〉が、狭い自室へと閉じ込められ、一歩も外へと出られなくなったのは、
社会見学としての区域入場を狙い、教師(
尤も──本気で入りたかったと言う訳でも無ければ、入って何かをしたかった訳でも無い──只の興味関心、或いは好奇心に拠るものだ。様々な機会に応じて触れられる“享楽”=あの『恋愛』と言う作法の、かつての行く末/結果の程を知りたかった(或いは其れすらも過程であったのかと)──そんな理由である事は、当局も良く良くと理解しており、実害も皆無であった事から、処分は一週間の自室謹慎で済まされたのである。それすら長くは感じられたが、穏当な事は間違いない無い──〈
つまりはそう、侵入を試みるべく吹き込んだのが、“彼等”とは思いも依らなかった──二心在ったなんて悟られず、あの〈三姉妹〉をも出し抜けた事実は、なかなかどうして愉快では無いか──其処で笑みが灯されると、〈オリヴィア・ヘイリング〉はスカートを翻しつつ、部屋の中へと舞い戻った。
窓の向こう/抜ける様な
かくして手筈を整えた彼女は、最後に扉の施錠を確認する──誰も途中で入って来ないと、少なくともに時差が在ると、頷いてからに小瓶を掴んだ。蓋を開け、刻まれた文字の示すが侭、左右の瞳に一滴ずつ垂らす。本当は二滴でも良い程には、余り有る時間を暇していたが、此れを手にする代価は大きい。入手が容易で無いからこそ、出来れば節制を試みねば──と、言う所で、
思わず窓の外を見遣れば、空が彼方へと後退して行く──視野拡大のある種の爽快感に、〈オリヴィア・ヘイリング〉の笑みも深まる。こんなだから規制もされると、小瓶を振りつつ、
遠近の/二つの
黒──白──光。そして光。
光が溢れ、世に満ちる──
【チャプター・022/049 〈
──の始まりは『
見えざる“何か”、大いなる“何か”と繋がり合う──下なるものは上なるの如く/上なるものは下なるの如く──その結果としての叡智や偉業は、かつて特別な人間だけの代物だったけれど、〈
地の果てにまで満ちる
その強烈な──けれど、用法用量を守るのならば絶対安全な薬効に拠り、今や〈オリヴィア・ヘイリング〉の意識は遥か彼方/別の地平線へと降り立った。
本当の肉体が部屋の中/『
〈TALKING TOTEM〉
【チャプター・023/049 〈
〈
(正確には『文通』と呼ぶべきだけれど、此処では余り差異は無い)
故に〈オリヴィア・ヘイリング〉は進む──廊下、廊下、廊下と言う事に成っている空間を、
左右にキッチリ選り分けられた、黒に艷やかな短か髪/〈
所でそんな〈
〈No.1870A:〈
〈:銀ナイフに纏わる数多の考察.〉が、その名称だったが、実際の所に名前等どうでも良く、重要なのは『.』の方──扉を開けて、中を覗く。〈部屋〉の内装は〈部屋主〉の意向に拠って決定し、自ら行うか/一定時間経過するまで〈消去〉されない。ソファや安楽椅子が散見する典型的雑談場に於いて、見るべきものは〈
今や居るのは〈No.2488A:月面軌道大砲倶楽部〉前──『螺旋』を想像して欲しい。ぐるりぐるぐる廻る其れが、〈トーキング・トーテム〉の構造であり、廊下は実は湾曲している。上二桁が〈階層〉を顕し、下二桁が『部屋番号』だ。〈階層〉の方だけなら、上へ/下へと昇降が出来、時間と手間を取らせない──どうせなら全部指定させてくれれば良いものを、処理だか何だかの問題で出来ないらと聞く。或いは、そう言う事にして置いて、実態は『移動』なる挙動の臨場感の演出とも耳にする──噂だ。真偽の程は定かで無い噂──
それもこれも、“彼等”であれば知っていようか──噂の出処も其処ではあり、“彼等”は日夜邁進している。情報の更新も、きっとされているに違いない、と、〈オリヴィア・ヘイリング〉は密かに微笑むと、逸る気持ちを抑えつつ、再び廊下を歩き出す──極稀にすれ違う、別の/誰かの〈
〈No.1414A:( 空白 ).〉──小さく穿たれた点が無ければ、『空き部屋』だろうと見過ごしていた筈だ。巧妙な手管に改めて感心すると共に、深呼吸を微かにしてから、〈
〈部屋〉は真っ暗闇であり、〈
『ようこそ〈
『今日はまた随分と早い入室だ。』
『謹慎もそろそろ飽きて来た頃かね?』
それは此の〈部屋〉の主人であり、“彼等”の主催からの言葉だった──男女不詳の、奇妙な音声が共に添えられている。此方は不備でも何でも無い、任意に設定された〈
『そう、その通り。一所に閉じ籠もり気味だと、段々嫌になって来ます。』
『〈
女性的に落ち着いた/相応しい声音を〈
『全く以ってその通り。』
『〈アリス〉は我々が変えねば成らない。〈三姉妹〉に等、任せてられぬ。』
『故にこそ、若き君の意見を聞こう、〈
その奇異なる声音で以って、〈
(大変ご迷惑をお掛け致します──)
【チャプター・024/049 〈虫〉を潰すには最適な日】
──その頃/一方〈
侵入用
赤銅色の敵側に対し、青銅色をした其の機体の名は〈ハイフライヤー〉──中には当然、人間が、/〈
〈アリス〉で産まれ/〈アリス〉が産み、〈アリス〉で育って/〈アリス〉が育てた、大切な市民を矢面に立たせる等、“彼女”の存在意義に関わる事──秘匿して置かねばならない事だが、現状を鑑みれば、致し方も無い。
一度宙空へと放たれた子機は、〈
しかも“彼女”には不思議な事だが、市民自身、それを望んでいる節が在った。
負ければ死/死ねば終わりである筈なのだが、〈
“享楽”──行為が好意の元ならば、尚更愉快な事であり──
──出撃、飛翔、その後に加速した〈ハイフライヤー〉は、〈敵ベテル・ギウス〉──(名付けられた仮の呼称は〈レッドゴブリン〉だ)──へと一気に肉薄すると、獲物たる“片手剣”を盛大に振るい、盛大に空振りして見せた──機銃でも持てば良いものを、何らかの拘りがあるらしい。燃料の切れた
計算され尽くした只一発の弾体で以って、“彼女”は蹴りを付けたのである。
ドッカーン、と──
中空に花開く爆炎と粉塵──連想され得る『
しかし、ともあれ、今回の〈混入戦争〉は無事終了し、〈
そして〈レッドゴブリン〉の送り主──十中八九〈
それ等瑣末事の半分を熟し、半分を〈三姉妹〉へと委ねると、〈アリス〉は再び〈
その爛々とした輝きの下に、世界は美しい
【チャプター・025/049
──もう一方、同じ空を抱く〈
海と浜とを隔てた〈
前者であれば問題無い、また別の手段を行うだけだ。下らない
ゴゥン、ゴゥン、ゴゥン、ゴゥンと──聖なる潤滑油に清められた歯車を廻して、〈
抜ける様な
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