第5話

 

 コートに立ち、試験官と向かい合う形となる。


「では、始めます」


「お願いします!」


 一礼し、互いに構えの姿勢をとる。リアのときのように、暫し無言の状態が続き、そして--


「<我n「<ライトニング・ボルテックス!>」……っえ?」


 俺は、雷魔法の聖級魔法II《せいきゅうまほうに》に属するライトニング・ボルテックスの魔法を放った。フライングのように見えるかもしれないが、あくまで魔法の”発動”が試験官の方が先なだけであって、”行使”まで先だとは定められていない。


 ★


 ”発動”は魔力を体内から排出し始めること、”詠唱”はそれを具体的に魔法の形へと成していくこと、”行使”はその魔法を対象に向かって実際に使用することだ。魔法はこの三段階に分かれているので、実は試験官が魔力を体外に出し始めたらこちらから反撃してもいいのだ。だが、普通は魔法の発動を感知することはそう簡単なことではない。この技術は俺の誇れる数少ない特技なのだ。


 この世界には”魔素”と呼ばれる物質があらゆる場所にはびこっている。その魔素を体内に取り込み、”魔力”に変換して、魔法使いは魔法を発動、行使するのだ。つまり、魔素がない場所では魔法が使えない、もしくは体内の魔力が枯渇すれば使えなくなるのだ。


 ★


 雷が渦を巻くように試験官へと襲いかかる。


「なっ、きみ--」



 試験官はそこまで口にした後、盛大に吹き飛ばされた。



 ……あ、あれ? もしかしてやっちまった?


「えっ」


 回復役の職員が口をあんぐりと開け、吹き飛んで行った試験官のいる方向を見つめている。


「……あー、あの……」


「……しょ、少々お待ちください!」


 職員はそう言うと、尋常じゃない速さで試験官の許へと駆け寄っていった。試験官は一度宙を舞った後、反対側の客席に落ちたようだ。


 ちょ、ちょっとだけやりすぎた? かな?


「ね、ねえ、プラネト!」


 俺が苦虫を噛み潰したような顔をしていると、聞き覚えのある声が耳に入ってきた。


「ん? リア、か?」


 俺が後ろを振り向くと、先ほどまで平民がどうのと息巻いて、いざ試験が終わると悔し涙を流していたリアさんが立ち竦んでいた。


「ぷ、プラネト、今のは一体……?」


 なんだ、平民じゃなくて普通にプラネトと呼んでいるじゃないか。やはりどこか無理をしていたのか?


「一体とはどういう意味だ? ただの魔法だ。それ以上でもそれ以下でもない」


「で、でもあの威力は……等級は?」


「あ? 等級?」


 ライトニング・ボルテックスの?


「今の魔法なら、聖級IIだぞ? それがどうしたんだ」


「へ、へえ!? 聖級IIですって!?」


「お、おい、声が大きいぞ!」


 案の定、リアの叫び声を聞いた周りの受験者やらが何事かと騒ぎ始めた。


「あ、あう、い、今のは申し訳ありませんわ。で、でも、聖級魔法……? 嘘ハッタリじゃありませんわよね?」


「当たり前だ、こんなことで嘘をついてどうする。俺は魔法の試験を受けに来たんだ、詐欺師の試験を受けに来たんじゃない」


「い、いちいち突っかかってきますわね……」


「もともとそっちが不躾な態度を取ってきたんだろうが。もう忘れたのか?」


「ぶ、ぶしつけ?」


「ああ、平民がどうとかな。しかも何回も言いやがって」


「あ、あれは……せ、セバスチャンがいましたし、その、試験前で気を大きく保とうと考えていて……」


 んん?


「あ? どういうことだ? その言い方じゃあ、本音じゃねえみたいに聞こえるが?」


「一部は、本音でしたわ。ですけど、先ほど試験を受けて、あっさりやられて、目が覚めましたの。私はなんて酷いことをと……ですから、その、謝らせていただきませんか?」


「今更何言ってんだ。それも口から出まかせだろ? あいにく、貴族にいいイメージはないものでね!」


 俺がそう言うと、一瞬ではあったが、周囲からきつい視線を浴びせかけられた気がした。


「こ、このような場で! 確かに、先ほどまでの態度ではそう思われても仕方ありません……ですが、これが私のありのままの姿です……先ほどは本当に、申し訳ありませんでした」


 リアが頭を下げてきた。頭をさげる時の仕草などから、やはり貴族というのは本当なのだなと感じられた。


「……全面的には信じない。だが、こんな公衆の面前で頭を下げさせてまで、つっけんどんに扱うつもりはない。今のところは保留にしとくぞ?」


 リアは頭を上げ、周囲を見渡すと、少し頬を赤らめた。そして、小さく頷いた。


「あ、ありがとうございます。先ほどは本当に、試験前で緊張していたり、執事に見栄を張ったり、アストミール家の者として、周りの貴族の方々に態度を示さなければと思ってしまったり……ですので今のこと態度が、本来あなたに取るべき私の態度です。これだけはどうか信じていただけないでしょうか……?」


 彼女は俺だけに聞こえるような小さな声でそういった。周りの貴族に聞こえるとまずいのだろうか?


「はあ……わかった。とにかくこれ以上関わらないでくれ。ほら、試験官も戻ってきたぞ?」


「あっ……すみません……」


 リアは今度は深々と頭をさげると、元の位置まで戻っていった。


「--プラネトさん、大丈夫です。あなたの試験はこれで終わりです。列の後ろへお戻りください」


 入れ替わるかのように試験官が戻ってき、俺に試験終了を告げた。


「そ、そうですか? すみません」


「いえ、素晴らしい魔法でした。確かに、試験概要には魔法の発動としか記されていませんでしたからね。意表をついたいい攻撃、まさに実戦向きといえるでしょう」


「はあ、ありがとうございます」


 そして俺は一礼をし、列の後ろへと戻った。

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マギ・アカデミア 〜俺は魔導学院で一位を目指す〜 ラムダックス @dorgadolgerius

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