第4話

 

「では、始めます」


「お、お願いいたしますわ!」


 彼女、リアが試験官と対峙する。互いに緊張した面ざしだ。試験は試験官から魔法を発動することが前提となっている。試験官もベテランの魔法使いとはいえ、これから世界を担っていくであろう魔法使いの卵をどう調理するか、色々と考えることがあるのだろう。


 調理と言ったが、試験官の放つ魔法はどの属性、どのような魔法かというのはランダムだ。理事長ゼリーさんが言っていたように、実戦を想定した試験だからだ。だが、一撃で大量に魔力を消費する魔法を放つ受験生もいるため、魔法の発動は一度きりなのだそうだ。一見矛盾しているように聞こえるが、爺ちゃん曰く、”先手必勝”タイプにも配慮した試験らしい。悪い言い方をすれば捨て駒、良い言い方をすれば消耗品……どちらも聞こえは良くないか。


 とにかく、どの受験生がどのような魔法を使えるか本当にわからないため、様々な可能性を見出すことのできる試験スタイルというわけだ。まあ、魔法の持続時間も評価項目に含まれているみたいなので、そこは捨てることになる者もいるのだろうが、恐らくは他の採点部分でカバーするのだろう。


「…………」


「…………」


 互いに無言の状態が続く。試験時間は限られているため、そろそろ試験官が動き出すはずだが?



 その時、試験官が詠唱を始めた。しかもこれは、高速詠唱……!



「<我に荒ぶる力を与えたまえ、フレイムボール!>」



 試験官がそう詠唱をすると、両掌に1メートルくらいはあろうかという火の玉が出現し、一気にリアの許へと迫った!


「!」


 リアは突然現れた火の玉に一瞬体を震わせたが、すぐに反撃できるように準備していたためか、こちらも詠唱を始めた。こちらも負けじと高速詠唱だ。



「<我に穏やかなる力を与えたまえ、ハイドロボール!>」



 リアの掌に水の玉が出現し、試験官へと突撃する。


 そして、火の玉と水の玉がぶつかった!


「「ぐっ!」」


 試験官もリアも、どちらも負けじと相手に玉を押し込む。魔法を発動している間は、延々と魔力を消費し続けるため、根くらべとも言える試験だ。しかも、フレイムボールもハイドロボールもどちらも上級I(じょうきゅういち)に属する魔法だ。消費する魔力量もかなりのもののはず。果たして、どちらが先に根負けするのか……!


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 余談だが、魔法には属性というものが存在する。


 ・火魔法

 ・水魔法

 ・風魔法

 ・土魔法

 ・光魔法

 ・闇魔法

 ・聖魔法


 そして

 ・補助魔法

 ・防御魔法


 の九つだ。この他にも、風魔法の下には植物魔法が、闇魔法の下には召喚魔法が、といったように、魔法というものは過去に明確に体系化され現代まで至っている。フレイムボールは火魔法、ハイドロボールは水魔法にそれぞれ属している。


 そしてその魔法には、等級というものも存在する。初級、中級と上がっていき、最後は神級となっている。それぞれの等級にはまた、I、II、IIIと三段階に分けられている。フレイムボールもハイドロボールも下から三番目、上級魔法に属しており、正確に言うと下から七番目の段階に位置する魔法なのだ。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 次第に、ハイドロボールの方が押し始めた。リアも足で踏ん張りながら懸命に両手を差し出す。だが、やがて息が上がり、掌が下がってきた。そして--



 ドーン!!



 あたりに爆発音が鳴り響いた。


 白い煙が立ち込める。


「「…………」」


 そして次に静寂が支配し、だんだんと煙も薄くなっていった。最後に立っていたのは……


「はあ、はあ……そこまでです」



 試験官だった。



「……ま、負けてしまいましたわ……」


 一方のリアは、膝をつき必死に息を整えている。そこへ、待機していた他の職員が駆け寄った。


「回復魔法をかけます、少しの間我慢してください」


「はあ……はあ……」


 職員の掌が光ると、リアの体も同じ色に染まる。そして一瞬で呼吸が整えられていった。


「……大丈夫ですか? 少しですが、魔力を分け与えました。本格的な治療は、また後ほどいたしますので」


「感謝いたしますわ……ふ、ふう……」


 リアはそういうと思いの外スクッと立ち上がり、試験官に一礼した後、下を向きながら俺の並んでいる列の後ろへと戻っていった。



「……ぐすっ」



 その直後俺とすれ違ったとき、確かにリアは、泣いていた--



「--次、3201番、プラネト!」


「はい!」



 よし、いよいよ俺の番だ!

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