エピローグ

ep13-1 エピローグ 大団円

「ルキーニ! ああ、一生犬コロのままだったらどうしようかと思ったぜ!」

「ヴォルティーチェ様! ボク頑張ったよ!」

 ひしっ!

 少年とルキーニが抱きしめあう。白い小犬が尻尾を振ってそれを見守る。

 ソニアが作った入れ替わりの魔力回路によって、先代の魔王ヴォルティーチェは少年の姿に戻った。

 他の魔王たちも地下牢に入れられていた本人たちと入れ替わり、元の姿を取り戻したのだった。


「ソニア! おおお、立派になって! わし、感激!!」

「お父様、厚苦しいです。抱きつかないでください。ひげを擦りつけないで下さい」

 邪険にしながらも、ソニアは父親との再会に悪い気はしていないようだ。


「グスタフ様……!」

「ム……貴様は母上の体を奪った魔導軍兵か。大人しく軍法会議の結果を待つんだな」

「あの日のグスタフ様の逞しいお身体が忘れられず、毎晩身体が疼くのです! どうかもう一度だけ私と!」

「ええい! 思い出させるな! それに私は男には興味が無い!!」

 グスタフに絡みついた魔導軍兵の男はやがて憲兵に連行されひきずられていった。

 グスタフはあれからどこか垢抜けた様な素振りを見せるが、彼は当時の事を多くは語らないのだった。


「マミヤ様ぁ、毒抜きのお手伝いさせてくださぁい」

「あっ、ずるい! 今日は私の番でしょ!」

 マミヤはあれ以降もガルフストリームの魔城を頻繁に訪れる様になり、毒を盛られて帰って来るらしい。

 すっかり毒が体になじんできたのか、あの豊満なバストも次第に厚い胸板へと変わりつつあるようだった。

 そして。



「本当に良いのですね?」と姫君が問う。

「……ああ、やってくれ」と騎士が答える。

 ツガルとソニアは皆に見守られる中、『入れ替わりの魔力回路』の中に入る。

 大魔王の力を受け継いだソニアはこの度の事件で作られた『入れ替わりの魔力回路』に関するすべての記録を廃棄し、今後は禁呪とすることを定めた。

 今ここにある物が最後の『入れ替わりの魔力回路』である。

 あとはソニアとツガルの体が入れ替わってしまえば、もう二度と誰も『入れ替わりの魔力回路』を作ることはできない。ソニア自身にさえも。

「これからは俺がツガルだ」と姫君の中の魂を持つ者が告げる。

「これからは私がソニアよ」と騎士の中の魂を持つ者が告げる。

 二人は話し合い、これから先も永遠に入れ替わることを誓った。

 お互いの元の体としての最期の夜を共に過ごし、元の体に未練はないと確かめ合ったのだった。

 『入れ替わりの魔力回路』がより一層輝きを増し、天に向かって光の柱を伸ばした。

「おぉっ」

 歓声が上がる。

 やがて光が収まる中に、姫君と騎士が向き合い立っていた。

「二人とも、体に異常は無いかい?」

 立会人のガルフストリームが二人の様子を見る。

 二人は何故か茫然と互いの目を見つめていた。


「入れ替わって……」「ない……?」

「……? おや、失敗ですか?」

 ガルフストリームは二人の足元にしゃがみ、魔力回路を点検する。

「ふむ、発動に失敗したようですねぇ。原因は……魂の定員オーバー?」

 ガルフストリームのつぶやきにビクリと体を震わせる姫君。

「ふーむ、おかしいですねぇ。ここには二人しかいないのに……まさか」

 ガルフストリームの視線を騎士も追う。

 二人の視線が注がれるのは、姫君のお腹だ。

「え、え……?」

 姫君が自分の腹部に手を当てると、非常に微かだが自分の物とは違う魔力の波動を感じた。

 小さいが、力強く存在を主張するそれは……。

「二人とも。念のために確認しておくけれど……最近、子供ができるような事はしていなかったかい?」

「えーっと?」

「したような、してないような? あはは」

 ガルフストリームの問いかけに、姫君と騎士は視線を泳がせる。

 その様子を見て察したガルフストリームは立ち上がり、周りの皆にも聞こえるように手をたたいた。

「ご懐妊おめでとう。ソニア姫、そして騎士ツガル」

「「……!?」」

 ざわめく観衆にガルフストリームはこう続ける。

「残念ながらお腹に子供を宿したままでは入れ替わりはできないみたいだね」

 それを聞き、ソニアとツガルは顔を真っ赤にして互いを見つめあう。

「ソニア、まさか……」

「そのようですね、ツガル……」


 二人は手を取り合い、気まずそうに照れ笑いをしながら、二人と新たな一人の未来に思いを巡らせるのだった。



   完

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

トランスソウル 雪下淡花 @u3game

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ