ep12-2
光が収まった謁見の間の床に、男女が倒れていた。
「あいたたた……おい、ソニア!? お前……何して……」
グラスハープの様に儚く可憐な声色が響く。
清楚な姫君は頭を抱えながらうつ伏せになっていた上体を持ち上げる。
「あー……ははは。ツガルが魔力回路を止めようとしていたものですから、つい」
腰に響く様な重低音の声が言う。
逞しい騎士が床に手をついて、仰向けになっていた上体を起こした。
顔を上げた2人の視線が交差する。
「……ソニア? お前、どうしてツガルなんだ」
「ツガルこそ。あなた……どうしてソニアなのかしら?」
それぞれ、相手の体をじっくりと眺める。そしてやがて自分の手足に視線を移していく。姫君はその細い手で端正な顔をなぞる。騎士は角ばった大きな手で短い髪を逆撫でた。
「もしかして」
「まさか」
再び目を合わせ、恐る恐る相手の顔に触れてみる。
「「戻ってるーーーっ!?」」
2人同時に叫ぶ。
しかし、いつまでも床に座り込んでいる場合ではないと察して周囲に注意を向ける。
倒れ込んでいた2人を守る様にマミヤと白い小犬が並び立っていた。
更にその先には魔王の体を乗っ取った魔導兵たちと怒りに震える魔皇帝の姿があった。
「ええい、一度体勢を立て直すぞ! ビンネンメーア、ガルフストリームを拘束しろ!」
「ハッ!」
魔王ビンネンメーアの黒い鞭が魔王ガルフストリームを瞬時に白衣の上から亀甲形に縛り上げた。
「タイダルウェーブ、道を作れ!」
「ハッ!」
魔王タイダルウェーブが巨大な筆をふるうと、虹色の道が窓から空に向かって形作られた。
「ゆくぞ、メイルシュトローム。魔導軍本部で儀式のやり直しだ!」
「ハッ!」
ガルフストリームを担ぎあげたメイルシュトロームが、虹色の道を行く魔皇帝たちの後に続く。
「ヴォルティーチェ、足止めをせよ! ……いや、そやつらはもう捨て置けん。処刑せよ!」
「ハッ!」
少年の姿をした魔王ヴォルティーチェが魔導軍のローブをはためかせて虹色の道の前に立ちふさがった。
魔皇帝たちは虹色の道で宙を走り魔導軍本部の方へと去っていく。
「てめぇ、その体をとっとと返しやがれ!」
白い小犬がキャンキャンと吠える。
それをゆっくりと拾い上げ、騎士ツガルがマミヤに小犬を渡す。代わりに剣を受け取った。
「すぐに終わります、待っていてくださいね」
マミヤの腕に収まった小犬の頭を撫で、ツガルが言う。
口調は柔らかな物腰だが、ツガルの目は鋭い。
剣を構え、ツガルはヴォルティーチェに向き合った。
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