ep11-8

「ぬわーっはっはっは! 良い眺めだろう、勇者よ!」

 メイルシュトローム城、国王謁見の間。その王座の横に立てられたY字型の張り付け台にツガルは捕えられていた。

 魔力回路が織り込まれたマントをはためかせ、魔皇帝ベルモントは笑い踊り狂っている。

「お前はそこで見ているがいい、この吾輩の計画の最終段階をな!」

 ベルモントがツガルを挑発する後ろで、大魔王メイルシュトロームの体を乗っ取った部下が魔力回路を生成し始めている。

 部屋の中心には魔王ガルフストリーム。それを取り囲むように他の魔王の体を乗っ取った部下たちが見張っている。

「いやはや、私も魔王を長く続けてきましたけれど……貴方のような悪党に叛逆されるのは初めてですねぇ」

 魔王ガルフストリームはいつも通りの穏やかな表情を浮かべているものの、額には冷や汗をかいていた。彼の足もとに大魔王メイルシュトロームの黒い魔粒子が集まり、魔力回路を形成しつつある。

「くっくっく、なぜ吾輩が魔王ガルフストリームを最後まで入れ替わらせずにとっておいたかわかるか?」

 ベルモントは意地汚い笑みを浮かべてガルフストリームに語りかける。彼は答えない。

「調べはついているのだよ、医療の魔王。他の魔王と違い、お前は代替わりをしていないのだとか?」

 ベルモントはニタニタと笑いながら、魔力回路が完成するのを待っている。

「いつも若々しく、老いないお前は姿形を変えずにいつまでも王位についている。そう、不老不死なのだろう?」

「……まぁ、そう言われてはいますねぇ」

「大魔王メイルシュトロームとて、加齢には勝てん。初代メイルシュトロームの力も世代交代で血が薄まっている。しかしお前は違う。初代勇者と戦ったという始祖の魔王たち。そのうちの一人、初代ガルフストリーム本人がお前だ! そうなのだろう!?」

 ベルモントの問いに、魔王ガルフストリームは否定しない。

「素晴らしい推察ですねぇ。私の秘密は今まで誰にも語っていなかったのですが……」

「その涼しい顔も今日までだ。吾輩が始祖の魔王の力を譲り受けるとしよう。なぁに、心配はいらん。お前にはこの魔皇帝の体をくれてやる。国家の大反逆者として世界中に顔と名の知れた魔皇帝として、玉座に座っているだけで良いのだ。吾輩はお前の体で永遠の時を生き、傀儡の皇帝を陰で操り続けてやろう」

 ベルモントは気分が高揚したのか、聞かれてもいない事をズラズラと語り続ける。

 要するに、魔皇帝ベルモントとして名を売った後に不老不死の魔王ガルフストリームと身体を入れ替えるという計画なのだろう。ツガルはそう理解した。

 その計画の最終段階、入れ替わりの魔力回路が今ツガルの目の前で完成しようとしている。

 かつてツガルとソニアを入れ替え、他の魔王たちの体を奪ったという入れ替わりの魔力回路。それは、次元の扉の魔力回路をふたつ繋げた様な形をしていた。

 元は大魔王の娘として魔力回路の研究に打ち込んでいたツガルには分かる。肉体と魂を転送する次元の扉をそれぞれの転移先を混線させたもうひとつの次元の扉に繋げる事で2人の肉体と魂を入れ換えてしまう仕組みなのだと理解した。

 しかし、理解したところでツガルはそれを使って元に戻るつもりはない。ツガルとソニアはもう入れ替わったお互いの体のままで生きて行くと誓い合ったのだから。

「ええい、何をもたついているのだ! 大魔王メイルシュトロームの体を使っていながら何故魔力を発揮しない!」

「も、申し訳ございません、ベルモント大佐! この体、発情しないと力が出せない様でして……」

「大佐と呼ぶでない! 吾輩は魔皇帝なるぞ!」

 大魔王の体となった部下が目を白黒させながら何とか発情しようと身悶えながら魔力回路に魔力を注いでいく。

 ようやく入れ替わりの魔力回路が完成したその時。国王謁見の間の扉が勢いよく開かれた。

「ツガル! 助けに来ましたわよ!」

「……ソニア!!」

 脇に控えていた魔王たちが一斉に扉に振り向く。

 ソニア、白い小犬、甲冑を着こんだ兵士の2人と1匹が部屋の中へ雪崩れ込んだ。

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