ep11-7
「なんじゃ、その小犬はこやつの知り合いか?」
自称メイルシュトロームはしゃがみ込んで白い小犬に語りかける。
「よう、大魔王メイルシュトローム様。お互い情けない姿になっちまったな。俺だよ、魔王ヴォルティーチェだ。後ろにいる奴らも魔王なんだって?」
「あらあら、ヴォルティーチェですって!?」
「無事だったのね!?」
牢の奥にいた兵士たちも柵の近くに寄って来た。どちらも外見は男の兵士だがどうも口調が女性らしい。
「この姿が無事って言えるのかねぇ? さて、どっちが魔王ビンネンメーアで、どっちが魔王タイダルウェーブだ?」
牢の中の2人は顔を見合わせる。白い小犬が自分たちの中身の正体を分かっている事に驚いたらしい。
「ようするに、魔導軍の奴らが俺たち魔王の体を入れ替えて乗っ取ったって事だろ?」
白い小犬はソニアの腕の中で偉そうに胸を張った。
牢の中の3人はそれぞれ顔を見合わせる。
「じゃあ、ここにいるのは皆……」
「乗っ取られた魔王たちの魂と、乗っ取った魔導兵の抜け殻って事だ」
「なんと……」
それから3人は、互いの素性をあらためて明らかにした。
「わしは大魔王メイルシュトローム。老いた勇者との戦いの末に力を使い果たし……気が付いたらこのザマだ」
「アタシは魔王ビンネンメーア……もっとも、随分昔の代から魔王の血を継いでいるだけなんだけどネ」
「私は魔王タイダルウェーブ。こんな所にいたら新刊落としちゃうよーっ!」
3人それぞれに我が身を嘆いている。
「私はアイゼン国の第一王女マミヤ・アイゼンだ。敵国の王とはいえ、そのような姿では痛ましいな」
「なあ、大魔王様よ。ここにいたツガルっていう若いヤツはどこに行ったか知らねえか?」
白い小犬が牢の中に語りかけると、3人は口ごもる。
「それがのう……」
「もう随分前に……」
「『処刑』するって言って、連れてっちゃったわ。牢から出た先、どこに行ったのかは分からないのよ」
「処刑……」
不穏な言葉を聞いてソニアは表情に陰をおとす。
そんなソニアを見上げて、白い小犬はソニアの腕から飛び出た。
「暗い顔すんなよ、ソニア! 俺が匂いで追ってやるぜ!」
白い小犬は4本足をピンと張って頼もしげな声を上げる。そして床に鼻を付けてクンクンと鳴らし始めた。
「あらまぁ、あのプライドの塊みたいな魔王ヴォルティーチェが犬の真似事を!?」
檻の中で魔王ビンネンメーアが野太い喚声をあげる。
そんな茶々も振り払って白い小犬は必死に匂いを嗅ぎ分けようと床に鼻を擦りつけている。
「クンクン……勘違いするなよ? 俺は元の体に戻りたいだけだ。ツガルを追えば俺たちをこんな目に合わせた奴らの所に辿り着けるだろうよ」
白い小犬は慣れない嗅覚をフル活用してなんとか匂いをたどり始める。
「こっちだ。ついて来い……」
頼りない足取りで白い小犬は牢屋の外へ続く道を進んでいった。
「行こう、ソニア」
「ええ。参りましょう」
マミヤ、ソニアが白い小犬に続いて牢屋を出て行った。
「ああっ、待ってっ!」
「アタシたちを解放して頂戴~~~っ!」
ソニアは慌てて戻り、鍵だけ開けて再び牢を後にするのだった。
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