ep11-6
「さて、鎧は私が借りておこう。城に潜入するには都合が良い」
マミヤは看守から奪い取った鎧を身に纏う。看守は鎧だけでなく服まで剥かれて空いている牢の中に閉じ込められた。
ソニアとマミヤが慎重にひとつずつ牢の中を見て行くが、ツガルの姿は見当たらなかった。
「おかしいですわね、先ほどの映像の中で確かにツガルがここにいるのを見たのですが」
ソニアは首をかしげる。そんなに早く人を移動させられるものだろうか。
「あの映像は録画した物だったのかもしれないね。同じ台詞を一字一句たがえずに何度も繰り返していたのだから」
「録画……?」
「記録した映像を何度も繰り返し見る事ができる機能だ。この国の魔力回路はやはり先進的だな」
マミヤは言いながら、最後の牢の前でピタリと足を止める。
「どうしましたの、マミヤ?」
「この牢……人がいるな。おい、そこの! 顔を見せよ」
マミヤが廊下のランプをもぎとり牢の中を照らす。
そこには4人の魔導軍兵士が部屋の隅で身をかがめていた。
「なんじゃ、貴様は……看守の声では無いのう」
若い顔の魔導軍兵士は顔に見合わず老いた口調でマミヤに応じる。
「お前たち、魔導軍だな? ここにいたツガルはどこへ行った? お前たちが捕えたあの勇者だ」
「わしを誰と心得る! この様な体にされたと言えど……この大魔王メイルシュトローム、貴様の様な若造に命令される謂われは無い」
若い魔導軍兵士は立ち上がり尊大な態度でマミヤに対峙する。
鉄柵の近くに来た事でソニアからもその姿が見えるようになった。
「大魔王メイルシュトローム……? お父様?」
ソニアが柵に近づいて様子を伺うと、牢の中の兵士もソニアの顔を驚いたように見つめ返した。
「ソニア!? おお、わしを助けに来てくれたのか! わし感激しちゃう!」
ソニアを見つけた途端に威厳が吹き飛ぶこの口調。ソニアは既視感を覚えて思いを巡らせる。
たしかにソニアの父親である大魔王メイルシュトロームもこんな感じだっただろうか?
「お父様なのですか? どうしてこんな所……そんな姿に」
「ううむ、わしも見当が付かん。この牢の中にいる者は皆、自分が魔王だと言ってきかんのだ」
ソニアが牢の中を見ると、残りの2人が頷いてみせる。残りの1人はなぜか部屋の片隅で両手足を床につける様な座り方をしてハッハッと舌を垂らす様に短い呼吸をしている。
「あやつは少々頭がおかしくなってしまったようじゃの。小用を足すときに足をあげて壁にむかって粗相しよる。まるで犬の様じゃ」
自称大魔王メイルシュトロームの男が眉間にしわを寄せて溜め息をつく。
と、その犬の様な兵士がソニアに近づいてキャンキャンと吠えた。
「な、何??」
ソニアが戸惑うと、ソニアの腕の中で大人しくしていた白い小犬モツァレラが急に暴れ出した。
「お、おい! そいつは確か俺の寝込みを襲いやがった夜盗だぞ!」
牢の中の犬っぽい兵士は白い小犬の姿を見ると気分が高揚した様で、激しく尻を左右に振りながらキャンキャンと四足で跳ねまわる。
「何だ、お前まさかモツァレラか? ルキーニの飼い犬の」
「アオーーーン!」
白い小犬が語りかけると、犬っぽい兵士は「そうだ」とでも言うかのようにヨダレをたらしながら遠吠えをした。
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