ep11-2

   ***


「……ツガル?」

 ソニアが目を覚ました時、隣で一緒に寝たはずのツガルの姿は無かった。

 既に太陽は空高くまで昇っている。寝過ぎてしまったようだ。

「朝食に行ってしまったのかしら? もう、起こしてくだされば良かったのに」

 拗ねて頬を膨らませながらソニアがベッドから起き上がると、どうも様子がおかしい事に気付く。

 穏やかだった城下町が騒がしいのだ。規則正しい軍馬の足音が町中から聞こえる様だった。

 ソニアはベッドの横にずり落ちていた衣服を拾い上げて身に纏う。

 着替え終わって部屋を出ようとした所で、タイミング良く部屋の外からノックも無しに扉が開けられた。

「ソニア! 良かった……無事か」

「マミヤ? 一体どうしたというのです」

「……ツガルは居ないな? やはりあれは偽物などでは無かったという事か。とにかく来てくれ!」

 マミヤの顔は青ざめている。請われるままにソニアはマミヤに従って館の食堂まで急いだ。

 食堂には館の者が全員集まっていた。しかしやはりツガルの姿はない。

 誰もが、食堂の壁に立てかけられた魔力回路製の受像機を見守っている。

「ソニアちゃん! こっちこっち! また始まるみたいだよ!」

「おはようございます、ルキーニちゃん。また始まるって……?」

「朝からずっと同じ番組ばっかりやってるんだ。放送局が乗っ取られてるみたいだよ」

 ルキーニの横に座ってソニアも受像機を見る。そこにはメイルシュトローム魔導軍の紋章が描かれた旗の映像が映し出されていた。

 戸惑うソニアだったが、やがてその旗が取り除かれて別の映像が映し出される。

 そこに映っているのは、どこかの国の王宮。黒いローブを纏った6人の人影。

「メイルシュトローム王の謁見の間だね。中央に立っているのは軍の将校かな? 離れて左右にいるのが、大魔王メイルシュトローム、魔王ガルフストリーム、魔王ヴォルティーチェ、魔王タイダルウェーブ、魔王ビンネンメーア。全員集合って感じだね」

 ルキーニがソニアに解説する。

 大魔王メイルシュトロームは確かに以前ソニアの城の中で出会った人物の様だ。ただし魔導軍の黒いローブをまとっている。

 魔王ガルフストリームはいつもと同じ静かな笑みを浮かべているように見える。

 魔王ヴォルティーチェは白い魔城の中で写真で見た通り、少年の姿だ。

「クソッ、オレの体を好き勝手にしやがって!」

 ルキーニの腕の中で白い小犬が歯をむき出しにしてグルルと呻る。

 魔王タイダルウェーブは話にしか聞いた事が無いが、ヴォルティーチェと同じ年頃の少女に見える。赤いベレー帽をかぶって巨大な絵筆を携えていた。

 そして画面端に立つのが妙齢の女性。説明によると魔王ビンネンメーアとの事だ。

「ああ、母上……魔王軍の戦いからは退いたはずなのに……」

 グスタフが嘆く。どうやらグスタフの母親らしい。

 映像の中で魔王たち5人が中央の男に向かってひざまずく。

 旧来の魔王を従えるというパフォーマンスであろうか。

『我が名は魔皇帝ベルモント。ここに魔帝国の建国を宣言する。我らが同志たちよ、時は来た!』

 自分に酔った声色で、まるで演劇の様な大仰な所作で両手を広げる自称魔皇帝。

 その滑稽さが、かえってその不気味さを浮き彫りにしていた。

『魔の者を妨げる勇者も我らの手に落ちた。魔族たちよ、もう恐れる物は何もない!』

 映像が切り替わり、拘束され投獄された男の姿が映し出される。

「ツガル!?」

 ソニアが息をのむ。

 映像が遠く小さいため分かりづらいが、昨晩と同じ服を着ている事から確かにそれはツガルの様に見えた。

 映像はすぐに切り替わり、再びベルモントの演説が続いた。

『我ら魔帝国は人類に宣戦布告をする! 手始めに東国アイゼンを打ち滅ぼすのだ!』

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