第11話 蜂起

ep11-1 第11話 蜂起

 翌朝、ツガルは皆が起きる前の早朝にグスタフの館を抜け出した。陽がまだ真横から照らす街の中を、あの白い魔城を目指して進んでゆく。彼の後を追う者はいない。

 白い魔城のもとにたどり着くと、急な客人にも臆することなく透明な扉は開いた。

 各所に採光窓が取り付けられた城内は朝日を取り込んで充分に明るい。見渡す廊下は光と影のまだら模様になって奥へと続いている。

 乾いた足音が反響し、人気の無い空間を満たした。

「やあ、お姫様。まだ診察の時間は来ていないよ。それとも勇者の使命を果たしにきたのかい?」

 いつの間に、そこにいたのだろう。魔王ガルフストリームがツガルのゆく光と闇の境目に現れた。

 ツガルは反射的に身構え、相手が誰であるかを確認して慎重に構えを解いていく。

「どうも、この城の中に招かざる客人が訪ねてきたようでね。……君はどうやら違うようだ」

「先生、オレは戦いに来たんじゃない。実は、心当たりがあるんだ。魂を入れ替える魔力回路に」

 ツガルは両手を開き、害意が無いことを示す。ガルフストリームは彼の所作には興味を示さず、しかし彼の言葉には聞き耳を立てた。

「なるほど? 庭で話そうか。ここでは声が響く」

 ガルフストリームは廊下の扉までツガルを導き、芝生の生い茂る中庭へと出た。

 ツガルはガルフストリームの後に続き、後ろ手で扉を閉めてすぐに語り始める。

「思い出したんだ、オレがソニアと入れ替わったときのことを。床に描かれたふたつの魔力回路、あれを再現すれば……」

 ツガルは熱のこもった視線で真っ直ぐガルフストリームを見つめる。

 だが、その視線の先に黒い影を見つけて目を見張った。

 ツガルの様子に気付いたガルフストリームもその視線を追って振り向く。

 中庭の遠く、壁際の陰の中にひときわ黒く揺らぐ影がそこにあった。

「さすがは元魔王の娘……我らの秘術に思い至るとは、やはり放っては置けんようだな」

 影が喋り、ゆっくりとふたりの方へ近づいてくる。

 朝日の光のもとに晒されたその姿は黒い。

 メイルシュトローム魔導軍の紋章が入った黒いローブだ。表面に赤い魔力回路のラインが入っている。

「おや、貴方は……」

 ガルフストリームが身構える。

 ツガルは目の前の状況が理解できずにうろたえる。

 目の前の影が黒いフードをめくり上げた、その中にあった顔は……。

「お父様……?」

 先日、老いた勇者との戦いで消滅したと言われていた大魔王メイルシュトロームの顔がそこにあった。

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