ep10-9
ツガルとソニアの秘め事は「食事の用意ができた」という連絡により中断させられた。
2人は慌てて服を着て、消臭スプレーの魔力回路から出る霧を浴びて食堂へ向かった。
席には既にアイゼン国王宮騎士団の面々とグスタフ、ルキーニが座っていた。
「あれ、マミヤとオーマは来てないのか?」
ツガルが不審がる後ろから、マミヤとオーマが遅れて現れた。
「いや、済まない。所用があってね」
マミヤは珍しく着衣の乱れを直しながらの登場だ。
後からついてくるオーマはフラフラと足取りもおぼつかない。
「××××には勝てなかった……」
などとうわごとを呟きながら、輝きを失った虚ろな瞳を宙に向けている。
「さて、全員揃ったな」
オーマが着席したことを確認して、グスタフはメイド達に合図を送る。
この館での二回目の晩餐が行われた。
ルキーニの希望で昨日に引き続き、豆と挽き肉をふんだんに使われた郷土料理が振る舞われる。
「ほら、モツァレラもお食べ。辛いけど美味しいよ?」
「くっ……口の周りの毛に汁が飛び散る! こんな風に犬食いしかできぬとはもどかしい!」
文句を言いながらもモツァレラは銀皿に顔を突っ込んでガツガツと平らげていく。
「ねぇ、ルキーニちゃん。その、モツァレラさんを元に戻すためにはやっぱり私が元に戻らなくてはならないのでしょうか?」
モツァレラを甲斐甲斐しく世話するルキーニを見て、隣の席に座るソニアの心がわずかに揺らいだ。
ルキーニにもルキーニの事情があってソニアに取り入ろうとしていたのだと知って、なんとか力になれないかと思ったのだ。
「ふぇ? あー……ははは! ごめんね、ソニアちゃん。キミを騙して力を横取りしようと思っていたボクに気を遣わなくていいよ。ガルフストリームの話を聞いて、2人が元に戻ってもモツァレラを元に戻せる訳じゃないって分かっちゃったし、もう無理に2人を戻そうなんて思ってないから安心してよ。それにね……」
ルキーニはイタズラっぽく口元をつり上げると、ペロッとソニアの頬を舐めた。ソニアの頬に料理のソースがついていたのだ。
「前にも言ったとおり、今のソニアちゃんの事は大好きだよ。その体とその心のソニアちゃんがねっ!」
「ルキーニちゃん……」
恋人を犬に変えられたというのに明るく振る舞うルキーニを見て、ソニアはルキーニの力になりたいと改めて感じた。
そんな2人のやりとりを、ソニアの隣に座るツガルは物憂げに見つめていた。
「さて、皆の衆。昨日は使えなかったが、温泉の準備ができたようだ。食事の後はゆっくり湯に浸かって温まってくれたまえ」
メイドから報告を受けたグスタフが皆に告げる。
宴にはやがて酒も入り、大いに盛り上がるのだった。
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