ep10-2

「うーーん……」

 魔王ガルフストリームが唸る。

 ツガルとソニアは2つ並んだベッドに寝かされている。

「なるほどね、はいはい」

 ガルフストリームは半透明のシートに映った白黒の画像を天井の明かりに透かしながら、感慨深げに頷く。

「先生、何か分かったのですか?」

 不安げに見守っていたマミヤが堪えきれずに問いかけた。

 ガルフストリームは二枚の写真をマミヤに見せる。

「ほら、これをごらん。2人の魂を透過撮影した物だ。こっちがソニア王女、こっちがツガルくんを撮ったものだが……」

 ソニアと言って差し出された物には逞しい男の姿が写っている。

 一方、ツガルと言って差し出された物には若々しい少女の姿が写されている。

「どうだい?」

 ガルフストリームの問いかけに、マミヤは首を傾げる。

「画像を取り違えたのでは……」

「うーん、やっぱりそう思う? あはは」

 ガルフストリームも、この結果に困惑しているようだ。

「魂が入れ替わった患者なんて初めてだからねぇ」

 後頭部をぼりぼりと掻きながら、どうしたものかと思案するガルフストリームの前に、白い小犬が躍り出た。

「おい、ガルフストリーム。その透過撮影の魔力回路で俺も撮影しろ」

「おやおや、ワンちゃん。……そうか、貴方も魂が入れ替わったのでしたね?」

 ガルフストリームは白い小犬を抱き上げて、撮影ブースにベルトで固定した。

「はーい、怖くないですからね、ワンちゃん」

「お前が言うとメチャクチャ怖いんだが……ムグ」

「喋ると上手く撮れません。ちょっと口枷で閉じていてもらいますからね」

「ムグーッ! ムグーッ!」

 暴れる小犬に顔全体を覆うようなベルトを取り付けて、ガルフストリームは暗黒微笑を浮かべる。

「ああ、元の姿のあなたもこうやってベルトで縛り付けておけば良かった。とても惨めで可愛いですよ、ワンちゃん」

「グルルルルル!」

「まあまあ、そう牙を剥かずに。はーい、撮ります。鳩が出ますよ~っ」

 バシャ。

 激しい光が装置から吐き出され、小犬の背中側にある壁に影が写された。

 いつの間にか遮光グラスを付けていたガルフストリームが近付き、背景の壁に貼り付いていた透明なフィルムを剥がす。

 フィルムには黒い影がしっかりと残されていた。しかし影の形は小犬の物ではなく、ソニアと同い年程度の少年の姿が浮き出ていた。

「おお、これは……。ほら、見てくださいワンちゃん。しっかり撮れていますよ」

「もごごご」

「うん、何ですって? ほら、魂の形は元のあなたのままです。本当にあなたが魔王ヴォルティーチェだったのですね。やっぱり撮影自体には問題なさそうです」

「もご」

「え? イケメンに撮れているか? はっはっは、魔王ヴォルティーチェともあろう方が容姿を気にしてどうします? あ、今はもう元魔王でしたっけ」

「もごーっ!!」

 口枷をされたままの小犬は目を血走らせながら抗議するが、ガルフストリームはその様子を楽しんでいるようにすら見える。

 ようやく口枷をはずされた小犬が一言。

「この悪魔め」

「魔王ですから~」

 ガルフストリームは悪びれずに、小犬をルキーニに返すのだった。

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