ep10-3

 ルキーニの腕の中で暴れる小犬を興味深げに眺めてガルフストリームは訊ねる。

「しかしねぇ、魔王ヴォルティーチェともあろう者がどうしてそんな姿に? 小犬と入れ替わったのであれば、元の体はどうなってしまったのでしょう」

「それが分かっていれば苦労はしない! こんな体にならなければ、ルキーニに王位を譲ることもなかったのだが」

「あはっ、そうだねー。ボクもビックリしたよー。ボクのペットのモツァレラがある日突然、魔王ヴォルティーチェの声で喋るんだもん」

 ルキーニは頭の王冠を小犬に乗せて面白がっている。

「ルキーニのペットと、魔王ヴォルティーチェの魂が入れ替わったのですか……もしかしたら、今頃は町を徘徊して民家の壁に粗相をしているかもしれませんね……想像したくないですが」

「想像するな、気色悪い!」

「うーん、不思議ですねえ。なぜルキーニのペットと……? 何か関係性があったのでしょうか?」

「あっ、それはねぇ! ボクが魔王ヴォルティーチェの愛じ「わおーーーん! わんわんわん!」

 ルキーニが何かを言おうとしたのを、小犬が吠えて掻き消した。

「愛人? ルキーニくんが、魔王ヴォルティーチェの?」

 小犬の努力も虚しく、ガルフストリームには聞こえてしまっていたようだ。

「うん! あの日もヴォルティーチェ様はボクを愛するためにボクの館に来て、それはそれは熱い夜を過ごしたんだけどね。疲れ果てて寝ちゃって、起きたら隣からいなくなってて。探しに行ったら犬小屋の前でモツァレラが倒れてて。起こしたらヴォルティーチェ様の声でしゃべり始めたんだよ」

 口元に指を当て、思い出そうと天井を眺めながらルキーニは少しずつ語る。

「何か異変はありましたか?」

「うーん……。あ、そうそう。地面に魔力回路の痕跡があったかなー。ぐちゃぐちゃに消されてて、よく分からなかったけど。調査結果によると犯人が逃げるときに使った次元の扉だろうって話だったけど、現場側に魔力回路が残ってたってのが不思議なんだよねぇ」

「ふむふむ……」

 ガルフストリームはルキーニの話も手元のノートにメモを取っていく。なにか気になることがあったようだ。

「何とか元に戻してあげたくてねー。大魔王メイルシュトロームの力を得れば何とかなるかなーとも思ってたんだけど……」

 ルキーニは、ちらっとソニアを眺める。

「大魔王メイルシュトロームは消えてしまうし、血と力を受け継いでいる肝心のソニア王女があの調子で、魔力回路の知識もなく魔力も本来の力を出せないなんて……はぁ」

 ルキーニはモツァレラを抱きしめて溜め息をつく。

 状況が掴めないソニアはキョトンとする他なかった。

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