ep9-6
「あの……ツガル、大丈夫?」
白い壁に大きく10と書かれた廊下で、皆一列に並んで壁際に座る。
目の前には魔王謁見の間への扉があり、扉には差し替え可能なネームプレートで「魔力科 院長ガルフストリーム」と記されている。
ソニアはルキーニの話を聞いて以来黙っているツガルの手をそっと握った。
「ああ、心配かけて済まねえ。でも、ちょっと独りで考えさせてくれ」
「……わかりましたわ」
ソニアはツガルの顔を覗き込むのをやめて大人しく隣に座る。しかし、手は離さなかった。ツガルもソニアの手を振りほどこうとはしなかった。
「あぅ~、ゴメンねツガルくん。でも、知らないよりは知っておいてもらいたかったんだ。これからのキミの事を考えて、本当にその体のままでいていいのかとか。……怒ってる?」
いつの間にかソニアと逆側のツガルの手を握ってルキーニが座っていた。
心配そうに涙目で訴えかけている。
「お、おいルキーニ。お前は名前を呼ばれるまで玄関ロビーで待っていなくて良いのか?」
グスタフが横からツッコむ。
「あーね。大丈夫だよ、ボクはアポなしで来たからまだまだ時間かかるだろうし。ロビーではモツァレラに待っててもらってるからさ」
「あの喋る犬か……確かにお前よりは大人しく待っていられそうだな」
「えーっ、ひっどーい! そりゃないよグスタフくん! おこだよ!」
ぷーっと頬を膨らませて抗議するルキーニ。
その様子に幾分か気を紛らわすことができたツガルはフッと笑って顔を上げた。
「大丈夫だ、ルキーニ。父が死んだのはお前のせいじゃないし、知らせてくれたことを怒ってもいない」
「ホント!? あー、よかった。ツガルくんとは仲良くしたいなって思ってるんだ。ホントだよ? だって、2人が元の体に戻ったときにボクが結婚するのはキミなんだからね。あはっ」
無邪気っぽく笑うルキーニ。しかしツガルはそれを押し留める。
「悪いが、オレたちは元に戻るつもりはない」
ツガルはルキーニの手を離す。
しかしルキーニは諦めない。
「本当に? ツガルくんは、それでいいの? メイルシュトロームの王妃マリアさまは王族ではあっても魔王の血と力を受け継いでいるわけではないから、苦労もしているみたいだよ? 魔王の血と力を受け継ぐ、本来のソニアちゃんにしかできないこともあると思うんだけどなぁ」
「それは……」
ルキーニの説得に、ツガルは言い返せない。ツガル自身も分かっているのだ。ソニアと駆け落ちをすると言うことは、本来の自分の役目から逃げ出すことなのだと。
「忘れないでね、ツガルくん。君たちが元に戻ることを望んでいる者もいるんだってこと」
「……」
「次の方どうぞー」
謁見の間から白衣の女が顔を覗かせ、一行を招いた。
その助け船にすがるように、ツガルは急いで席を立った。
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