ep9-7

「やあ、いらっしゃい。久しぶりだね、グスタフ」

「ご無沙汰しております、魔王様」

「……先生と呼びなさい。さて今日はそちらのおふたりさんの診察だって?」

 魔王謁見の間は非常に狭く、また簡素だった。魔王ガルフストリームの前に座るグスタフとの距離は1メートルもない。どちらも丸椅子に座っている。

 部屋のあまりの狭さに、王宮騎士団の面々は廊下で待って貰うことになった程だ。

 魔王ガルフストリームに対するは、グスタフ、ツガル、ソニア、マミヤ、そしてルキーニ。

「やは! ガルフストリーム先生おひさ!」

「おや、ルキーニ。いや、今はもう魔王ヴォルティーチェとお呼びするべきでしょうかね。戴冠式お疲れさまでした」

 なぜかルキーニも一緒に部屋に入ってきたらしい。親しげに魔王ガルフストリームと語り合っている。

「おい、ルキーニ! なぜ入ってきた! ……いや待て。魔王だと?」

 グスタフがルキーニをつまみ出そうとするが、ルキーニの頭の上に乗った王冠を見て訝しむ。

 ルキーニは赤と黒を基調にしたトランプモチーフのドレスを着て、それに合わせたような小さい王冠を戴いていた。

 どうやらそれはファッションではなく、本物の王位の証ということらしい。

「いやしかし、おかしいですねぇ。先代の魔王ヴォルティーチェは行方不明のはず。どうやって王位を継承したのです?」

「ルキーニの事だ、何か小狡い手でも使ったのであろう?」

「むぅ、失礼な! ボクは正当な手順で新しい魔王としての力を示して民に認められたんだよ? 先代だって、ほらここに。おいで、モツァレラ!」

 ルキーニに呼ばれて、玄関ロビーから白い小犬が走って部屋に飛び込んできた。

「おいルキーニ! 一体どこへ行ったかと思ったぞ! ……って、ここは!?」

 白い小犬はルキーニの腕に飛び込むやいなや、ルキーニを叱りつけた。そして、周りに注目されていることに気付いて急にクゥンと小犬の鳴き真似をしてみせる。

「これは驚いた。この犬が先代の魔王ヴォルティーチェだと言うのですか?」

「くっ……久しいな、魔王ガルフストリーム……」

 小犬が目を丸くし、魔王ガルフストリームへの警戒心を強める。早くも犬のフリは諦めたようだ。

「ふむふむ、なぜ魔王ヴォルティーチェともあろう方がこんな可愛らしいワンちゃんになってしまったのか、興味深いですねぇ」

 クイッと眼鏡を押し上げて魔王ガルフストリームは小犬を眺める。が、すぐに顔をそらした。

「ですが、まずはそのお二人について検査しましょう」

 ようやく本題に戻り、魔王ガルフストリームはツガルとソニアを見つめた。

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