ep8-7
「やあ、スッキリしたね」
風呂から上がり着替えを済ませたマミヤが、ツガルとソニアに着替えを持ってきた。
マミヤは言葉通り、憑き物が落ちたようなスッキリした表情をしていた。
「ツガル、もう夜が明けてしまったがここで寝て行くかい?」
「ふぁ~……。オレは一度部屋に戻らせてもらうぜ。一晩中留守にしちまったからな」
あくびを噛みころしてツガルは寝ぼけた目を擦る。仮眠でもしようものならそのまま夜まで熟睡してしまいそうな勢いだ。
「そうか。ソニアは城の方へは連れていけないので、済まないがしばらくはこの離れ小屋に寝泊まりしてもらうことになるが……?」
「あー、そうだな。魔王国のお姫様とあっては顔が知られてるかも知れないからな。仕方ねえ、良い子にしてるんだぞ、ソニア。ふわ~ぁ」
ツガルは何度もあくびをしながら小屋を出て自室に戻っていってしまった。
ソニアもツガルを見送った後、マミヤにあてがわれた個室で眠ろうと思った。
のだが。
バタン!
ツガルが入ったばかりの部屋から大きな物音が。
ただ事ではないと感じたソニアがツガルの部屋に駆け込む。
扉はすんなりと開いた。
「どうしましたの……ツガル!?」
黄金色の月明かりが差し込む暗い部屋の中で何かがうずくまっていた。ツガルだ。
だが尋常な様子ではない。ツガルを中心に石畳の床が大きくへこんでいる。
「どうしましたの、ツガル! しっかりして」
「……ッ!?」
ソニアが慌てて近づくとツガルは背を弓のように反らせて悶えた。
バシッ。支えようとしたソニアの手をツガルが振り払い、さらにうずくまる。
「あ……ガッ……」
ツガルは骨張った手でもう片方の手を掴む。その手が不意にソニアに向かぬように必死に押さえている。
ソニアははたかれた手をさすりながらツガルを見守ることしかできない。
「お、オレは……そうか、これが……!」
歯を食いしばり、肩で息をしてツガルは上体を起こす。
「勇者の力か……!」
ドゴッ!
内側に籠もった力を解き放つように石壁を殴りつけると、壁は小さな隕石でも当たったかのようにクレーター状にえぐれて砕けた。
「ハァ……ハァ……ッ!!」
ツガルは壁と拳を見比べて目を丸くする。
「どうして……」
ツガルが手を握ろうとすれば手はこぶしを作る。開こうと思えば再び手も開く。
しかし思い通りにいかない何かが胸の中にあるのをツガルは感じていた。
「どうして、勇者の力が、オレの中に!!」
そしてツガルは目覚めた力を確かめるように、視界に入った物を殴り壊した。
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