ep8-8

 ***


「ツガルの様子がおかしいって?」

 マミヤは城に仕える侍従の報告を受けてツガルの自室に向かった。

「ツガル、どうした!? 入るぞ!」

 ドンドンドン!

 マミヤがツガルの部屋のドアをノックしても、獣のような荒い息づかいが聞こえるだけだ。

 マミヤは鍵のかかっていない扉を開けて中をランタンで照らした。

 ランタンの灯りが届かない窓際に座ったツガルの影が、月明かりの中で鮮明に浮かび上がっていた。

「マミヤか……」

 ランタンが照らす床は所々に穴が空いてでこぼこになっている。

 今のツガルの心の内のように、立ち入る者を躊躇させ拒むようであった。

「ソニア、何があった?」

 マミヤは部屋の隅で放心していたソニアに声をかける。

 なぜかツガルはソニアを睨みつけていた。

 急変したツガルの態度にマミヤははただ事でない何かが起きていると悟った。

「どうしたというのだ。話が通じるのならば訳を話してもらおう」

 マミヤがソニアをかばうように一歩前に出る。

 それを見てツガルは自嘲気味に笑い、月を仰いだ。

「今夜は満月だ。魔力を持つ者の力が最大限に高められる日。遠い地でも魔王と先代の勇者の戦いに決着がついてしまったようだ。オレにはわかる。戦い続けた先代の勇者は、今、力を増した魔王によって倒されてしまったのだろう。だからオレに、勇者としての力と宿命が授けられた。でも……」

 語りながらツガルは、ランタンの灯りが届く所まで歩いてきた。

 自ら掻き乱したとわかる赤い爪痕が手首に刻まれていた。

 自分の内側の何かと戦っていたかのようだ。

「でも、なあ。どうしてなんだ? どうして、オレの中に魔王の娘の魂が宿っている!?」

 正気を失ったとわかるツガルの表情さえも、ランタンの灯りのもとに照らされてしまった。

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