ep6-7

 跳躍するマミヤの体が宙を舞い、剣先が日の光を反射して軌跡を描く。

 ツガルは体を滑らせるように軽やかにそれをいなし、剣技を放つタイミングを見計らう。

 一歩間違えればどちらかに大きなダメージが与えられる様な状況にもかかわらず、ツガルはフルフェイスの兜の中で笑っていた。マミヤの笑顔に釣られただけではない。この体がマミヤとの戦いを楽しんでいるのだと感じた。ツガルは笑いを抑えることができなくて戸惑っていた。

 もしかしたらマミヤはツガルと縁浅からぬ関係だったのかもしれない、とさえ思われた。それほどまでに、この剣と剣がぶつかる音はまるで恋人たちの語らいの様に静かに、2人の耳にだけ届いた。

「…… (マミヤ、貴方は一体ツガルの何なのでしょうか?)」

 ツガルの心がわずかに曇る。その隙にもマミヤの剣は容赦なく降り注いでくる。

「ホラホラ、どうしたんだい? よそ見をしている暇はないよ!」

 マミヤに煽られてツガルはついに意を決して剣を再び逆手に構える。

 やり方は体が覚えている。

「…… (すみません、マミヤ。わたくしは……貴方の大切な人を奪ってしまったのかもしれませんね。けれど)」

 マミヤを正面に捉えて放つ渾身の一撃。

 まともに食らえばただでは済まされない。

 ツガルはそれを分かった上で、一切の小細工を弄せずに真正面からぶつける。

「…… (もう、わたくしはツガルを手放すことはできないのです。だからどうか、この一撃で身を引いてください!)」

 それは、乙女の宣戦布告だった。

「『剣閃』ッ!」

 ツガルの淀んだ想いが込められた一撃は、しかしマミヤに届かなかった。

 受け止める構えを見せていたマミヤは剣が当たる直前で真後ろに跳び、木偶人形を踏み台にしてツガルと交差するように急旋回した。

 頭を狙ったマミヤの飛び込みに、思わずしゃがみ込むように避けるツガル。

 両腕で顔を覆い、再び構えを解いたときには視界が開けていた。

 背中から地面に倒れ込むように寝転ぶ。

「私の勝ちということで良いかな?」

 頭の上の方からマミヤの勝ち誇った声がする。

 ツガルが寝転んだまま首だけ声の方に向けると、反転した視界の先では余裕綽々といった仕草でマミヤがフルフェイスの兜をもてあそんでいた。

「あの剣技、やっぱりホンモノだったようだね。しかし、しばらく会わない内に随分と腕が落ちたようだね、お兄様」

 お兄様……とは?

 何のことか問い質そうとツガルが起きあがると、先ほどの従者がマミヤを庇うように立っていた。

 相変わらず嫌悪に満ちた視線をツガルに投げかけてくる。

 あまりの気迫にツガルは開こうとした口を閉ざした。

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