ep6-8

 マミヤから「お兄様」と呼ばれて呆然としているツガルの前に、コホンと咳払いをして侍従の女が身を乗り出して来た。

「お戯れはお仕舞いになりましたでしょうか、ツガル様。貴方には今日からこちらに御座しますアイゼン国第一王女マミヤ・アイゼン様の護衛として勤めていただきます。今後、先程のような危険なお遊びはご遠慮ください」

 侍従の鋭い目つきはまるで巣の中のひなを守る親鳥のようだとツガルは思った。うかつに近付いたら激しく突っつかれそうである。

「新任の護衛がつくとは聞いていたけれど、まさかお兄様とは。私も驚いたよ。ああ、こちらは私の侍女のオーマだ。極度の男性嫌いでね。無礼は許してやってくれ」

 侍従に守られながら困った顔でマミヤが弁明している。その様子から察するに、この目つきの鋭い侍従オーマの態度はいつものことのようだ。

 突然の打ち明け話に目が点になるツガルだったが、そう言えばとアカシ団長から聞いた話を思い出す。

 『いま現王には12人の子がいるが全て女子だ』

 と。

 なるほど、であればマミヤはその12人いるという義理の妹の内の1人なのだなとツガルは納得した。

 妹ならばある程度の親交があっても不自然ではない。そして、異性としての関係にはなり得ないだろう。そう考えてツガルはようやく安心するのだった。

「…… (べ、べつにわたくしはあの方の元交際相手が気になったとか、そういうわけではありませんからね! ただ、ツガルとして生活するに当たって色々と情報が必要だっただけで!)」

 ツガルは心の中で言い訳をする。

 そんな動揺するツガルに追い打ちをかけるかのように、マミヤはとんでもない提案をする。

「いや、しかし良い汗をかいたね。お兄様、一緒にシャワーでも浴びようか」

「「いけません!!」」

 二人分の声が重なってマミヤを止める。

 オーマとツガルの声だ。

 オーマはバツが悪そうに、しかしツガルを睨む。

「なんだい、二人して……。再会を祝して久しぶりに裸の付き合いでもと思っただけじゃないか」

 マミヤは悪びれる様子もなく肩をすくめる。

「マミヤ様! 第一王女ともあろうお方が男に無防備な姿など晒してはいけません! 男は皆、野獣の様な欲望を抱えているのですよ! 大切な貴方様の身に何かあったら私はどうすれば良いのですか……! うっうっうっ……」

 オーマは怒り過ぎて感情が高ぶり泣き出した。

「ひさしぶり!? ま、まさかツガルとマミヤは日常的に……は、はだかの付き合いを!? ダメです、許しません! 兄妹でそんな……! うっうっうっ……」

 ツガルは嫉妬のあまり泣き出した。

「おいおい、どうしたんだい2人とも。兄妹で間違いなんて起きるわけ無いだろう? ハッハッハ!」

 剛毅に笑うマミヤだったが、ツガルに向ける目は密かに恋する乙女の目をしていたのだった。

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