ep5-5

「ちょっと貴方! ここは5階よ!?」

 ソニアは突然窓の外に現れた少女に驚いて駆け寄り、階下を覗き込んだ。

 そこには魔力を帯びたトランプがまるで階段のようにステップになって空中に固定されていた。

「えへへ、すごいでしょ。これ、ボクが作ったんだよ?」

 少女は手元に残ったカードを扇状に広げてみせる。裏面の幾何学模様がラインに沿って光っている。魔力回路だ。

 少女はスカートが翻るのも厭わずに跳び、ふわりと部屋の中に降り立った。

「キミがソニアちゃんだね? ボクはパルミジャーノ・ルキーニ。ルキーニちゃんって呼んでね!」

 少女はスカートの両端を摘まんで軽やかに一礼した。

 つられてソニアも礼をする。

「ご、ごきげんよう。ソニア・フォン・メイルシュトロームでございます」

「わーっ! かわいいなぁ、さすがお姫様! あっでも髪が痛んでるよー。ちゃんとケアしないとせっかく素材が良いんだからもったいないよー? ネグリジェ透けててキレイだねー。ボディラインもくっきり見えるよ。うぅ、腰が細くて羨ましいなぁ。ボクももっと引き締めなきゃだ。肌も白くてつるつるプニプニだねー。でももしかしてちょっと体調悪い? ダメダメ! ダイエットも必要だけど体を壊しちゃ元も子もないよっ。あっそうだ、ソニアちゃん。今度一緒にエステいかない? すっごく良いサロン知ってるんだぁ。王室御用達なんだって! あ、ソニアちゃんも王室だっけ。てへへ」

「あ、あのー……」

 ルキーニのたたみかけるような語り口にソニアはたじろいだ。

 ルキーニはニコニコと笑顔を絶やさず、ソニアの腕を絡め取るように引っ付いている。

「ルキーニさん、」

「ちっがーーう! ルキーニちゃん! だよ?」

「ルキーニちゃん……は、その、何かわたくしに御用があったのでしょうか? どうも初対面のようですが……」

 ソニアはお姫様の体の記憶を引き継いでいない。だから昔の思い出話や古い友人等については何一つ知らない。そのこともあって城の中ではソニアは記憶喪失ということで通していた。

 ルキーニの開けっぴろげな態度からソニアはお姫様の古い友人かと身構えたが、名前を聞かれたことから初対面だろうと察する。ルキーニがソニアに馴れ馴れしいのは単にルキーニ自身の性格によるものらしい。

「ふっふっふー」

 ルキーニはソニアにべったりとくっつきながら不敵な笑いを漏らす。

 いぶかしむソニアにグイッと寄って、ルキーニはソニアの腕を抱き締める。ルキーニの体の熱が腕全体にまとわりついた。

 ルキーニの愛らしい幼い笑顔が、さらにソニアに近づく。

 ソニアは可愛い女の子に積極的に迫られて思わず頬を赤らめた。

「ボクはねぇ、ソニアちゃんをヨメに貰いに来たのだ~~っ!」

「……えっ? は? えええぇ~~っ!?」

 満面の笑みで高らかに宣言するルキーニ。

 呆気にとられていたが、その言葉の意味を理解したソニアはのけぞって困惑の声を上げた。

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