ep5-3
「困りましたわねえ、ソニア。貴方そんなに男性恐怖症でしたかしら?」
お見合い行脚を始めて一週間。
1日に5人は訪問しただろうか。
結論から言うと、ソニアのお見合いはことごとく失敗に終わった。
ソニアもなんとか体面を保ち縁談を進めていたのだが、相手の男に体を触れられると異様に怯えて言葉も喋れなくなる有り様だった。
見かねたマリアはソニアを城に連れ帰り慰めるのだった。
「やはりあの邪悪な東国の騎士にさらわれた時に何かトラウマになるような事があったのかしら。大変だったでしょう、ソニア。つらい思いをしましたね」
「違います……! ツガルはそんな……」
ソニアの脳裏にツガルとの旅の思い出が駆け巡る。
……身に受けたセクハラの数々は、今は脇に置いておく。
「ツガルはそんな悪いヤツでは……ございませんわ」
「ともかく、自分の意思で相手を決められないのであれば、貴方の意向より政略的に相手を見繕わなくてはなりませんよ。このお見合いも、せめて貴方が快く嫁げる様にという国王の取り計らいによるものなのですからね?」
マリアは呆れたように捨て台詞を残してソニアの部屋を去っていった。
耳にタコができるほど聞かされた事だ。
ソニアの為と良いながら結局は用意された道しか選べない、不条理な選択肢を提示されている。
きっとこの体の持ち主の少女も、これまでずっと同様の不条理を恩着せがましく示されて来たのだろう。そう思うとソニアは我が事のように胸が痛むのだった。
彼が元いた世界では生きるか死ぬかを常に選択しなければならなかった。しかしそこには自由があった。選択肢も回答も自分で用意して先に進む自由が。
しかしソニアがいるここには、生命を脅かす不安などない。その代わり自由がなかった。
どちらが良いのかは彼には見当もつかなかったが、彼はお姫様を哀れに思った。
マリアが去り、静かになった部屋でソニアはドレスを脱ぎ捨てた。
ほとんど裸の姿で窓際のソファに身を投げて倒れ込む。ふかふかのクッションがソニアを受け止めた。
「ツガル…今どうしてるのかな…。会いたいよ、ツガル……」
ソニアはツガルの事を想い、自分の体の芯が熱く潤うのを感じた。
お見合い旅行で疲れ果てたソニアはそのまま毛布も掛けずに眠りに落ちてしまう。
眠るソニアの背中に彫り込まれた幾何学模様の紋章が、人知れず白く淡く輝いていた。
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