ep4-6
「う……いてて」
ソニアが気がつくと、天蓋付きの大きなベッドの中にいた。彼は横になったまま頭を押さえる。
ベッドは今まで彼が経験したどの寝床よりも優しく柔らかく彼の体を丁寧に包み込んでいた。
部屋を見渡すと、実用性に乏しそうな装飾が盛られた絢爛豪華な調度品が並んでいた。
窓の閉ざされたカーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。
「目が覚めたか? ソニア」
低く唸るような声が部屋に響いた。
ソニアは声の主をぼんやり眺める。
そうだ、この男だ。ソニアは確信した。
魔王メイルシュトローム。
魔力によって国を支配し、魔物を統べる、魔法大国メイルシュトロームの国王。そう聞いている。
先日の満月の夜、ソニアが感応のオーブで見た通りの姿であった。ソニアはその映像を思い出す。魔王という蔑称もあながち間違いではないと思わされる程の凄まじい戦いだった。筋骨隆々の老兵である東国の先王が魔力に翻弄され、歯も立たなかった。太刀の一筋さえも通らない圧倒的で一方的な強さだった。
ソニアは警戒する。もし自分の正体がバレてしまっては徒では済まないだろうと。
滲み出る覇気。荘厳な佇まい。存在そのものに王たる威厳を感じる。これが魔王……。
「んもう! ソニアったら急にいなくなるんだもの。わし、心配しちゃった!」
魔王はソニアのベッドに駆け寄りオイオイと嘆き喚いた。
前言撤回、こいつ只の子煩悩なオッサンだ……。ソニアは呆れて更に頭を抱えた。
「えーと……」
ソニアは何とかこの場を収めようと、呼びかける言葉を模索した。
「……(この体の実の父親なんだよな。さすがにオッサンはマズいだろ? オヤジ? 父上?)」
呼称ひとつでも怪しまれてはいけない。ソニアはなんとか言葉を紡いだ。
「あ、安心して。もう大丈夫だよ、パパ」
ニッコリ。
ソニアは可能な限りの満面の笑みを作って見せた。
「……ソニア、今何と!?」
ソニアの言葉に魔王は真剣な、射抜くような視線をソニアに投げかけた。
「……(まずい、さすがにパパは違ったか)」
ソニアは背中に汗をかくのを感じた。
いぶかしむ魔王の視線を作り笑顔で受け止めなければならず、顔がひきつるのを必死で堪えた。
「いつもは無愛想に『お父様』としか呼んでくれないソニアが『パパ』とな!? おい、大臣! 大臣はいるか!? 今日は我が国の記念日にするぞ!」
魔王は感極まって涙を流しながら赤いローブを引きずり走ってソニアの部屋を出て行ってしまった。
「な、なんか複雑な家庭環境なんだな。あいつ……」
ソニアは静かになった部屋のベッドの上で、今の自分の体の元の持ち主のことを想った。
「今どこにいるんだろう。無事なのかな、ツガル……」
心細さと寂しさに押しつぶされないように、ソニアは再び布団を頭から被った。
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