ep4-7

 ソニアが自室で目覚めたとき、ツガルも目を覚ましていた。

 石畳に藁を敷いただけの床、石レンガを積み上げられた壁。そして正面の壁はくり貫かれて鉄柵がはめ込まれていた。灯りは廊下のランタンだけ。

 ここはどうやら牢屋らしいとツガルは分析する。

「さて、困りましたわねぇ」

 武器や鎧などの金属は取り上げられている。手足を縛られていないのが幸いと言ったところか。

 ツガルが部屋の中を一通り確認し終えると、興味は外に向く。

 牢屋なのは分かったが、いったいどこの牢屋なのか。

「国境の魔導兵……あれはメイルシュトロームの魔導軍のものでしたわね。ソニアは表向きは舞踏会の夜に魔物に誘拐されたことになっているはず。何故魔導軍はわたくし達を襲ったのでしょうか。それも、ソニア諸共……」

 考えを纏める為に呟いた声が牢屋に響く。どうやらここは密閉された地下牢のようだとツガルは感づいていた。

 と、そこへ。あまりにも静かで自分以外誰もいないと思っていた地下牢に別の声が響いた。

「聞き覚えがあるぞ、その声……。魔王討伐の前夜に逃亡した裏切り者、勇無き勇者よ」

 ツガルのいる牢から廊下を挟んで反対側の牢の闇の中、誰かがいる。

 闇に慣れたツガルの目に映るのは隻眼の老人。ソニアに感応のオーブを渡した時に見た映像の中で見た、魔王に立ち向かう老兵によく似ていた。

「貴方は……?」

「フン、しらを切るつもりか? 知らぬ筈があるまい。東国アイゼンの勇者王、キタン・アイゼンとはこの儂じゃ。魔王メイルシュトローム打倒を悲願とし、命ある限り戦い続ける宿命を背負った勇者の、老いさらばえた成れの果てよ」

 訥々と老人は語る。

 若い兵を戦いに駆り立て失脚し王位を退いた後も魔王と戦い続けた彼もとうとう捕らえられ投獄されたのだった。

「成る程、貴方が……」

 ツガルが老人に語りかけようとしたところで、騒がしい声と共に扉が開く音がして、この牢屋に新たな囚人が連れ込まれたのだった。

「ええい、離せっ! このグスタフ・ビンネンメーア、逃げも隠れもせぬ! 鎖を引かれずとも二本の足で自ら牢獄に入ってやろうではないか!」

 黄金の甲冑を奪われ簡素な服をあてがわれたグスタフが、牢の看守であろう兵士をむしろ引きずりながら牢屋の廊下に現れた。

 そして看守から鍵束を奪い取ると、自分で牢の鍵を開けてツガルのいる部屋に入ってきてしまった。

「貴方、グスタフ!?」

「なんと! 貴公は確かツガルとか言うソニア姫の付き人であるな。そうかそうか、貴公も捕らえられたか。ならば今は我らは同じスタートラインにいるというわけだ。ハッハッハ! ソニア姫の心はこのグスタフが貴公より先に射止めてみせるぞ。貴公はそこで指でも咥えて見ているが良いわ!」

 恋敵であるツガルが牢獄に居ることが余程嬉しかったのか、グスタフはふんぞり返ってツガルを見下す。

「……貴方も同じ檻の中なのですけれどもね?」

 ツガルの突っ込みがグスタフの耳に届くには未だ少々時間がかかるようだった。

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