ep4-5

「おや? 何でしょうな、関所が騒がしい様で」

 グスタフは荷台の隙間から前を確認する。ソニアとツガルもグスタフの肩越しに前方を覗き込んだ。

 国境にある門の前にはいくつもの馬車、それも軍馬二頭立ての大きな荷馬車がずらりと並んでいた。

 ツガルを追っていた東国の馬車ではない。ここメイルシュトローム国の王都の近衛兵隊のようだった。

「ふむ、妙ですな。こんな所にこれ程の兵が集められているとは」

 やがて関所の前で止まった馬車から、グスタフが訝しみつつ降りて関所の衛兵に声をかけた。

「これ、衛兵。私はガルフストリーム国のグスタフ・ビンネンメーア。メイルシュトロームの外遊を終え帰国するものである。門を開けよ」

 黄金の甲冑を煌めかせてグスタフは尊大な態度で衛兵に命じた。

 しかし。

「これはこれは、グスタフ様。舞踏会では残念でしたな」

 白いカイゼル髭をたくわえた白銀の甲冑の老騎士が衛兵の代わりに応えた。

 一際大きな馬車から出てきたその男はメイルシュトローム国の魔導軍参謀、ベルモント大佐であった。彼は背後に、赤い魔力回路を織り込まれた黒いローブで身を包んだ魔導兵を連れている。

「貴殿は何だ? 名を名乗れ」

 グスタフは相手を軍人と見るや、即座に威圧的で横柄な態度で応対する。

「これは失敬。私はベルモント。この関所を任された魔導軍の将校でございます。さて、グスタフ様。舞踏会の折に我らが至宝、ソニア姫が何者かに拉致された事はご存知でしょう。我々は犯人を捉えソニア姫を奪還すべく検問を行って居るのです。どうかご協力頂けますでしょうか?」

「おい、貴様! 私を犯人呼ばわりする気か?」

「いえ、何もその様なことは……ですが一度、その馬車の中を確認させて頂きたく」

 ベルモントはグスタフの白い馬車に近づいていく。

 グスタフが止めようとベルモントの背を追いかけると、黒いローブの者たちに道を阻まれてしまった。

「おい、何のつもりだ! ええい、通せ!」

 グスタフとしてはソニアを密かにガルフストリーム国に連れ込み挙式する腹積もりであったが、確かに舞踏会の途中で行方不明となっていたソニアをメイルシュトローム国の王家に断りもなく連れ出す事は誘拐に等しいだろう。

 ベルモントが馬車に近づいて幌を捲りあげようとした、その瞬間。

 ベルモントがいる反対側から馬車を飛び降りる影があった。

 ソニアとツガルであった。

 2人は身の危険を察知して逃げ出そうとしていたのだった。

 ベルモントという男にただならぬ物を感じたためである。

「おやおや、ネズミが飛び出した様です。捕らえなさい」

 パキン!

 ベルモントが指を鳴らすと、黒いローブの者たちが一斉に地面スレスレを飛び、ソニアとツガルを取り囲んだ。

 バリバリバリ!

「うぐっ!」

「キャアアア!」

 黒いローブの者たちが電撃を放ちソニアとツガルを行動不能にした。

 ついでにグスタフも電気ショックにより気絶させられた。

「さて。これで誘拐の真犯人は捕らえたな」

 ベルモントは不敵にほほえむと、電撃を受けて地面に倒れ伏したソニア、ツガル、グスタフの3人を運び出すように黒いローブの者たちに指示した。

 3人はまとめて一つの馬車に詰め込まれた。

 その馬車を引き連れた小隊が関所を離れメイルシュトローム城へと向かっていった。

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