ep4-4

「ソニア姫、このグスタフが来たからにはもう安心です。それにしても……」

 鼻血を拭ったグスタフはソニアを真正面から見ないようにチラチラと目配せする。

「その格好、少々刺激が強すぎるのではないでしょうか?」

「ああ、コレか。ツガルがオレの為に用意してくれたんだとよ」

 ソニアは誇らしげにスケスケの服をつまんで見せる。

 それを聞いてグスタフの顔が青くなり、赤くなり、鋭い視線をツガルに向けた。

 ツガルは受けて立つとでも言いたげに勝ち誇った顔でグスタフの視線を受け止める。

「貴公という奴は! ソニア姫になんて破廉恥な格好を! ソニア姫、この男はとんでもない変態です!」

「ああ、うん。知ってる……」

「ソニア姫、こんな魂まで濁りきった者のどこが良いのです!? やはり私と共に参りましょう。これから向かうガルフストリーム国では既に式場をおさえています。貴方の様に魂の清らかな御方には私のような一流貴族が相応しい!」

 雄弁するグスタフに聞こえないように、ソニアは溜め息をつく。

「……はぁ。良いのかねえ、本人の前でそんな事言っちまって。元に戻った時、知らねえぞ?」

 批判されたツガルはもう何を言われても動じないといった風で馬車の後ろから遠ざかる風景を眺めていた。

「グスタフ、これからガルフストリーム国に向かうと仰いまして?」

 ツガルは先ほどが罵声も意に介さないといった様子でグスタフに気軽に話しかける。

「ああ、そうだ。私の力の及ぶ領地内であれば、先ほどの追っ手からソニア姫をお守りできるからな」

「なるほど。実はわたくしたちも元々ガルフストリーム国まで旅をする予定でしたの。よろしければガルフストリームの王都まで送って頂けますでしょうか」

「そうか、そういう事なら……っておい貴公。何故私が貴公の頼みを聞かねばならぬ!」

「あら。ソニアもわたくしと同じ所へ行くのですから、わたくしの頼みはソニアの頼みも同然ですのよ?」

「くっ……いいだろう。しかし貴公! ソニア姫を軽々しく呼び捨てにするなど無礼にも程があるぞ」

「あぁ、良いんだって。そのまま呼ばせとけよ」

「しかし姫……先ほどの追っ手からソニア姫をお守りできなかった東国の騎士風情などに呼び捨てを許してはなりません!」

 と、そこでソニアは手を打ち、思い出したように告げた。

「ああ、さっきの奴らか。あれはオレじゃなくてツガルを狙って来てたんだぜ?」

 その告白を聞き、ついにグスタフは目をひん剥いてツガルに食いかかった。

「き、貴様ァーっ! よもや貴様の内輪もめにソニア姫を巻き込んでいたとはな! やはり貴様だけ馬車を降りろ! 今すぐ!」

「ははは、先ほどはグスタフのお人好しに助けられましたわ」

「……ソニア姫ぇ、貴方からも何とか言ってやって下さいませんか?」

「いやー……オレからは何とも言えんわ……」

 騒がしい荷台を牽いたまま馬車は淡々と道を進む。やがて、ガルフストリーム国へと続く国境の関門が見えてきた。

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