ep4-3
「お、おい。この子……!」
ソニアとツガルを取り囲んでいた東国の兵士の1人が我に返って騒ぎ立てる。
「……(やべぇ、オレが魔王の娘だってバレたか?)」
事態を見極めるためにソニアは唾を飲み込んで次の言葉を待つ。
「すげーエロい格好してる!」
ずっこけそうになるソニア。しかし思い出してみればソニアは今、ネグリジェの上に胸と腰だけ隠した鎧を着ている。しかも外からは見えないが鎧の下はオープンブラとオープンショーツだ。身を隠していたはずのマントは落下の衝撃でめくれ上がってしまっていた。
「おいバカ、怖がらせてどうする。ゴメンなお嬢ちゃん、立てるかい?」
別の兵士が先の兵士を押し退けるように身を乗り出してソニアに手を差し出した。
「あ、ありがと」
ソニアが差し出された手を掴もうとすると、瓦礫の中で尻餅をついていたはずのツガルが凄まじい勢いで立ち上がり、ついでにソニアの肩を抱いて立たせた。
「わたくしのソニアに触れないでいただきたいですわ!」
ツガルはまだ目を回しているくせに、ソニアの事にだけは頭が回るようだった。
「失礼、旅を急ぎますので! ご主人、天井の修繕費と宿賃ですわ!」
ツガルはぶりぶり怒ったまま金貨袋を宿屋の主人に放り投げると、ソニアの両肩を抱いたまま宿の出口に向かった。
「その声……ツガルか? いつから女言葉を使うようになった?」
ツガルが寝ていた瓦礫のさらに下から、呻くような声が響いた。
先ほど下敷きにしてしまったアカシ団長が目を覚ましたらしい。何という頑強さだろうか。
「……ツガル? そのオネエが?」
他の兵士達の間にざわめきが起きる。
もはやこれまでと意を決したソニアとツガルは走り出した。逃げ出した事で無言の肯定となってしまうのは致し方ない。今はとにかくアカシ団長率いる東国王宮騎士団から一歩でも遠く逃げ退かねばならない。
「あ、逃げたぞ!」
「待て、ツガル!」
騎士団は慌ててツガルを追って宿の外に出た。
慌てすぎて出口で詰まった。
ソニアとツガルは後ろも見ずに走った。
よく知らない町の裏路地をいくつも通り抜け、大通りを下っていると遠い後方から騒がしい馬車の音が近づいて来るのが感じられた。
このまま走っていては追いつかれてしまう。
焦りがソニアとツガルを急かした。
その時である。
大通りの十字路で横合いから純白の馬車が突っ込んできた。
あわや轢かれると思った矢先、馬車は2人と併走するように旋回して速度を落とした。
白い幌の荷台の後ろが開き、中から黄金の甲冑を纏った伊達男の声が響いた。
「おい、貴公! なんだそのザマは! やはり貴公には姫様を任せられんぞ!」
「…お前は!」
「グスタフ!?」
グスタフは走る2人の手を引いて馬車に乗せると、後部を閉じて御者に合図を送る。馬車はぐいぐいと速度を上げてすぐに町から飛び出した。
「おお、ソニア姫、ご機嫌麗しゅブホッ!??」
勿体ぶった気障な仕草で挨拶をしようとしたグスタフは、ソニアのネグリジェ鎧姿を真正面から目撃してしまい、盛大に鼻血を吹いて仰け反ったのであった。
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